知見

[ものづくり]

「広く持つ」から「深く勝つ」へ ── PBR起点で考える化学・素材産業のCXと再編の論点


古澤 利成
経営共創基盤(IGPI)マネージングディレクター
ものづくり戦略カンパニー
IGPIグループ共同経営者
化学・素材産業では今、大きな産業構造の変化が起きている。競争の軸が規模やスペックからニーズへの適応に移ったことで、基礎化学品事業に加え、川中にも複数の事業ポートフォリオを有する「総合化学メーカー」は大きな課題に直面している。
本稿では、稼ぐ力を示す自己資本利益率(ROE)と市場からの期待を示す株価収益率(PER)、そしてこの2つの乗算で求められる株価純資産倍率(PBR)を起点に、日本の化学・素材産業の構造変化を読み解き、各社のコーポレート・トランスフォーメーション(CX)の進め方、そして業界再編の論点を明らかにする。

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〈要約〉

1. 「広く持つ」戦略が競争力につながらなくなった
化学・素材産業では、川上・川中の双方で競争条件が変化している。規模の経済による優位や高付加価値というだけでは優位性を維持しにくくなり、顧客ニーズを捉えたソリューション提供が競争力の源泉になっている。その結果、事業を「広く持つ」よりも、特定領域で「深く勝つ」ことが重要になっている。

2. 事業ポートフォリオは市場からの評価にも直結する
総合化学メーカーの分散的なポートフォリオは、市況変動への耐性や安定性をもたらす一方、成長市場への注力度合いが低くなりやすい。そのため、低ROE・低PERになりやすく、結果としてPBRでも見劣りしやすい構造となっている。
一方、特定領域に経営資源を集中させ、時には川下領域まで進出するピュアプレイヤーは、成長テーマとの結び付きが明確で、市場から高い評価を得やすい。

3. ポートフォリオ改革は「何を残し、何を手放すか」の決断である
PBR向上のためには、成長が期待できるコア領域を明確化し、ノンコア事業で創出した資金を再配分する必要がある。さらに、コア領域においてはどの製品群に経営資源を集中し、その領域で勝ち切るための組織能力まで設計する必要がある。また、川上事業においては「この事業は、自社が持ち続けることが最適なのか」を正面から問い、必要に応じて、統合、切り出し、再編といった選択肢を含めて検討しなければならない。

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