
[両利きの経営]
「両利きの経営」を実現するネガティブ・ケイパビリティ:「答えを出さない」という経営判断
豊田 康一郎
経営共創基盤(IGPI)マネージングディレクター
IGPI グループ共同経営者
なぜ新規事業は、優秀な人材と、合理的な意思決定のもとで失敗するのか。両利きの経営の重要性は広く知られている。しかし現実には、多くの企業で探索は早期に打ち切られ、既存事業の論理に飲み込まれていく。問題は「実行力不足」や「覚悟の欠如」ではない。不確実性を前に、早く答えを出し、整理し、説明責任を果たそうとする…、一般に優秀とされる経営判断そのものが、探索を窒息させている。両利きの経営において経営者に求められるのは即断即決の狭義の決断力だけではなく、不確実な状態に耐え、拙速な結論を出さない能力、すなわちネガティブ・ケイパビリティである。では、なぜ多くの日本企業ではそれが機能しないのか。その構造的理由、従来型コンサルティングの限界にも踏み込み、経営者自身に問いを投げかける。
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〈要約〉
1. 通常「優秀」とされる経営判断が、実際には探索の芽を潰している
既存事業を磨きこむ「深化」と新規事業を創出する「探索」の両立を目指す両利きの経営は、その重要性が広く共有されている反面、往々にして、探索の縮小という形で失敗する。その背景にあるのが、不確実性を前にして、定量的に現状を把握し、早期に答えを出すといった、既存事業で機能してきた思考様式と探索の相性の悪さだ。新規事業という極度に不確実性の高い領域では、早すぎるタイミングでの仮説の固定化が、本来残しておくべき可能性を刈り取ってしまう。
2. 深化と探索の相反する論理を共存させるにはネガティブ・ケイパビリティが重要である
ネガティブ・ケイパビリティとは、不確実性や矛盾に満ちた、答えの出ない状況において、性急に結論や解決策を出そうとせず、その状態に耐え続ける能力を指す。深化と探索は本質的に異なる論理に立脚しており、評価基準も文化も、時間軸も異なる。経営者には、二つの異なる世界観を同時に引き受け、両者の間の緊張関係を「構造」として維持することが求められる。
3. ネガティブ・ケイパビリティを組織能力として捉え、経営システムに埋め込むことで、両利きの経営は持続的な営みになる
両利きの経営を持続性の観点から見ると、ネガティブ・ケイパビリティを経営者個人の器量や資質に委ねることは危険である。既存事業と探索組織の構造的な分離、探索の現場と経営層をつなぐ翻訳役の存在、判断の時間軸の合意という3つの仕組みによって、不確実性への耐性を経営システムに埋め込んだ時、両利きの経営は初めて再現性を持つ。
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