知見

[ものづくり]

IGPIが読み解く中国自動車業界の変革 ――日系企業が直面する課題


小林 輝亮
経営共創基盤(IGPI)マネージングディレクター
IGPI上海 総経理
IGPIグループ 共同経営者

黄 山
IGPI上海 アソシエイトディレクター
中国自動車産業は2020年代に入り、電動化・スマート化・ソフトウェア化を軸とした構造的再編期に突入した。生産・販売台数は再び成長軌道に乗り、世界最大の自動車輸出国へと躍進した一方、プレイヤーを消耗させる「内巻き」競争が激化し、淘汰の波が押し寄せている。日系OEM・サプライヤーはこの急速な変革の中で競争力を失い、現地化や意思決定スピード、技術革新対応が大きな課題となっている。本稿では、IGPIの中国拠点であるIGPI上海のメンバーが現場から見た産業再編の実態と、日系企業に求められる戦略転換の方向性を論じる。

※IGPI上海では引き続き「中国自動車業界の変革の見立て」シリーズと題して、今後も業界の動きや日本企業の可能性をレポートしていく。詳細はIGPI上海WEBサイトに掲載。

全文ダウンロード(PDF:1983KB) PDFはこちら

〈要約〉

1. 中国自動車産業の変革と進む淘汰
中国の自動車産業は、2009年に自動車販売台数世界を記録して以降成長を続け、2024年には生産・販売台数3,000万台を超えた。特に2020年からの5年間は、初期の量的成長とは異なる質的転換が起きた構造的再編期と位置付けられる。スマート化・ソフトウェア化の急速な進展によって、サプライチェーンやビジネスモデルが前例のないスピードで再構築され、消費者の自動車への認識までもが大きく変容した。その結果、素早い変革を遂げた企業が業界のリーダーとなった一方、対応の遅れた企業は淘汰されつつある。

2. 日系OEM・サプライヤーの競争力低下
2020年に中国乗用車市場で23%のシェアを誇った日系OEMは、シェア12%(2025年第3四半期)へ急落。部品サプライヤーも現地市場向けの開発・販売機能が不足し、需要急減に対応できないばかりか、サプライチェーンから排除されるリスクが拡大している。こうした企業にとっては、従来の「漸進的改善」や「安定・コンプライアンス重視の経営」を超えた、戦略的な現地化と新しい事業モデルの構築が急務となっている。

3. IGPIが指摘する三つの根本課題
IGPIは日系企業が直面する課題として、①本社の理解の遅れ、②戦略の揺らぎによる時間の浪費、③変革を先導する先行企業の存在を挙げる。特に核心課題と言えるのは、「現地化」と「トライアル&エラーのメカニズム」の構築である。本社主導型ガバナンスから現地裁量型への転換が求められ、現地法人による迅速かつ柔軟な意思決定とリスク管理の両立が重要な経営テーマとなる。

4. 産業再編の5年と中資系OEMの台頭
2020〜2025年の中国では、政策誘導・技術革新・市場競争が駆動する構造的変革が進んだ。技術面では、電動化とSDV化の加速が車両の競争力の中心を「機械性能」から「計算能力とソフトウェア能力」へと移行させつつある。こうした中で、中資系OEMは開発スピード、迅速な意思決定、顧客理解を武器に外資を凌駕するだけでなく、海外市場への参入も進めており、中国は世界の自動車変革の起点となった。

5. データが示す構造転換の実像
NEV普及率が50%を超えた中国自動車業界での競争は成熟市場でのシェアの奪い合いと言える。その中で、中国市場のみに注力することができない外資系OEMは、技術の蓄積や新型車の投入ペースで後れをとり、従来強みのあった中高級車市場でも、スマート化・ソフトウェア化を味方につけた中資系の参入が進んでいる。一方、サプライチェーンレベルで構造転換の恩恵を受けているのは、EVの「三電」分野およびスマート化・ソフトウェア化分野のサプライヤーや小米、セレス、理想などのOEMである。こうした中資系OEMは、「内巻き」競争の泥沼となっている中国自動車業界から抜け出そうと、海外展開を進めている。

6. 撤退か再構築か、求められる「戦略」
IGPIは、中国市場における外資系のシェアは今後さらに縮小すると予測する。ここでは果断な撤退と現地化の徹底の双方が選択肢となりうるが、どちらも険しい道と言えるだろう。重要なのは、早期に戦略的方向性を明確にすることである。中国市場の変化は不可逆であり、従来型の経営モデルは通用しない。外資・日系企業に求められるのは、状況を正確に見極め、自社が進むべき道を明確に定め、迷いを排した決断と実行に踏み切ることである。

>全文ダウンロードはこちら

お気軽にお問い合わせください。

Contact Us
  1. TOP
  2. 知見
  3. IGPIが読み解く中国自動車業界の変革 ――日系企業が直面する課題