[資本市場対策]
上場の意義を戦略的に再考せよ
経営共創基盤(IGPI)
ジェネラルカウンセル 宮下 和昌
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<要約>
1. 「株式会社プライムマーケット」に映る、企業評価と資本効率のギャップ
市場全体の時価総額の96%超を占める東証プライム市場を仮想的に“1社”と見立てて財務分析を行うと、ROE(自己資本利益率)や利益率は改善しているにもかかわらず、PBR(株価純資産倍率)は1.0~1.5倍にとどまっている。これは、市場の成長期待(PER:株価収益率)の低下を示唆しており、資本市場から「稼ぐ力の維持」よりも、「資本の再配分を通じた価値創造ストーリー」こそが求められていることの表れである。
2. 上場維持のための「無形の負担」がもたらす経営資源の分散
ガバナンス改革の進展に伴い、独立社外取締役の選任やESG対応など、上場企業にかかる「無形の負担」が増大している。これらの取り組みは企業価値向上に資する重要な改革である一方、実務対応で多くの経営資源を費やさざるを得ない。特に規模の小さい企業では、上場維持のコストと上場によって得られる便益のバランスが釣り合わない“上場コスト割れ”に陥るケースも少なくない。
3. よく語られる「上場の意義」は真か
上場の意義としては、よくエクイティ・ファイナンスの実施が挙げられる。だが、実際の株式市場における資金調達額は、未上場のスタートアップでも可能な規模(10億~30億円)にとどまっており、調達手段としての活用機会は限定的なのが実態だ。他によく言われる、株価形成を通じた経営成績の可視化についても、TOPIX500に含まれる上場企業のうち約3分の1をPBR1倍割れ企業であることを思えば、株価が経営に十分に反映されているとは言い難い。
4. アクティビストと「同意なき買収」という外圧
アクティビスト活動や「同意なき買収」といった外部からの圧力にさらされる中、経営の現場は「常在戦場」と化している。こうした外圧に対応するには、平時から資本政策の見直しや、株主との対話を通じた信頼関係の構築が不可欠であり、戦略的レビュー体制を構築しなければならないが、これらは経営資源の分散を加速させる可能性があり、上場自体が経営上の戦略課題となりつつある。
5. 企業価値を最大化する最適資本構成と最適株主構成の設計
資本コスト(WACC)を抑えて企業価値を高めるには、最適資本構成と最適株主構成の追求が不可欠である。株主資本コストは所与の数値ではなく、ガバナンスや開示姿勢、株主とのエンゲージメントを通じて戦略的に引き下げうるものとしてとらえるべきだ。個人株主との関係性を重視するイオンと、機関投資家と信頼を築くトヨタといった対照的な事例があるように、自社にとって望ましい株主像を定義し、それに即した資本政策を設計することが重要である。また、検討の結果、株式市場からの撤退、すなわち「非上場化」も企業価値最大化の選択肢となりうる。その場合も、再上場を視野に入れる一時的措置か、恒久的な選択かなど、明確な戦略の提示が不可欠である。
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