Next Leaders' note

NECが挑む金融の新価値創造 ―デジタルと人のハイブリッドで目指すフィナンシャル・ウェルビーイング

2023年9月、日本電気株式会社(NEC)はデジタルを活用した金融商品仲介業を立ち上げ、企業の社員を対象とした資産運用アドバイザリー・サービスを開始しました。資産運用立国や資産所得倍増が謳われる中、その一翼を担う新規事業を主導するNECの渡邊輝広さんを迎えて、日本における資産形成の課題や新事業の可能性をIGPIの沓掛広和と対談しました。

自ら事業に挑戦し、コンサルティング力も磨く

沓掛 これまで金融機関向けにシステムやサービスを提供されてきたNECが、個人向け資産運用という金融業に自ら参入するのは大きな転換です。なぜそのような意思決定をされたのでしょうか。

渡邊 大きく2つあります。1点目がDX(デジタル・トランスフォーメーション)コンサルティング力を強化することです。NECはシステムインテグレーターとして金融機関の要望に沿った大規模システムを構築することを強みとしてきましたが、社会が変化しニーズが多様化する中で、お客様自身も何を構築すべきか分からない時代になっています。その中で我々に求められるのは、業界や環境変化を熟知したうえで適切な進言や提案ができること。そうしたコンサルティング力を磨くために、お客様と同じ立場で事業を推進し、課題を見つけ、自ら解決する経験を積むことが肝になると思ったのです。
2点目は、「貯蓄から投資へ」と言われて久しいですが、なかなか進んでいません。そうした現状に対して、企業の社員に向けたアプローチが有効なのではないかと。企業には雇用主として、これまで以上に社員の資産形成を後押しする意義があるのではないかと考えました。そこで、まずはNEC社員向けのサービスから開始し、社員のフィナンシャル・ウェルビーイングを実現したいと思いました。

沓掛 1点目ですが、IGPIグループもコンサルティング機能を持つ傍ら、自ら投資や事業経営もしています。自分たちで事業をしているからこそ、的確かつリアルな戦略策定ができます。また、コンサルティング特有のゼロベースで先を見据える力を事業経営にフィードバックして、好循環を生み出そうと考えています。事業経営とコンサルティングを両輪で推進するという考えを共有できるのは非常に面白いです。
2点目の「貯蓄から投資へ」は、かれこれ20年以上言われ続けていますよね。裏を返すと、20年解決されていない。これは妙な話です。私たちは生きている以上、子どもの教育、病気や老後の備えなど、常に不安が付きまといます。これをお金の面から解決するのが金融であり、資産形成のニーズは必ずあるのです。にもかかわらず、なぜ資産形成が課題だと言われ続けるのか。日本人はリスク回避的と言われますが、もっと重要な問題がある気がします。
金融庁が個人投資家に行ったサーベイを紐解くと、銀行や証券会社が顧客の信頼獲得に苦労している状況が見えます。この信頼というのは重要で、人は信頼していない相手に自分の悩みを打ち明け、お金を預けようとは思いません。ニーズはあるのに、信頼をもって応えられるプレイヤーが不足しているのが現状ではないかと思います。
このため、雇用主の信頼関係をベースに社員に資産形成ソリューションを提供する今回の新事業は、資産形成が進まない社会課題に対する有効な打ち手になりそうです。

渡邊 この課題を解決するためには、お客様に一番近しい存在で独立した立場で資産運用の支援をすることが大事だと思い、IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)という金融商品仲介業に着目しました。
スピード感をもって進めるためには、既存のIFAプレイヤーと協業する必要があると考え、私たちがやりたいビジョンが共有できるJapan Asset Management(JAM)と資本業務提携をすることにしました。デジタルテクノロジーへの理解が強いこと、目先の儲けに走ることなく顧客に寄り添うこと、そのために社員教育もしっかり行っていることが決め手となりました。お客様の着実な資産形成を後押しするために、自分たちは何をすべきかを一緒に考えるパートナーが必要だったのです。

デジタルと人の力を融合させ、新たな価値を生む

沓掛 ESG(環境、社会、ガバナンス)の観点で、社員のウェルビーイング向上を考えている企業が増えています。今回の取り組みは、社員の悩みを金融の面で解決し、働きやすい環境を整備してウェルビーイングを向上させつつ、一方でNECとしても新しい金融事業のあり方を探索しています。サステナビリティと金融の両面で新しさを実現しているのは画期的です。

渡邊 NECでは強い個人・強いチームを作るため「挑戦する人の、NEC。」という人事方針を掲げていて、そのなかの一つに「ベストを尽くせる環境/文化」というテーマがあります。金融は、社員が挑戦や活躍するための土台になるものです。仕事ももちろん、スポーツ、家族、旅行、娯楽など人の幸せにはいろいろとありますが、そうした活動を楽しんで、幸せを実現できるのは、金融というしっかりとした土台があってこそ。そこを企業として支えたいと思いました。また、将来的にはNECの中に閉じるのではなくて、他の企業様にも社員のフィナンシャル・ウェルビーイングを支えるサービスとしても展開していくつもりです。

沓掛 その一方で、ビジネスの観点で気になるのが収益性です。今回の新事業はいわゆるプライベートバンクに近いですが、そうした事業者は顧客の悩みに対峙して、その解決手段のひとつとして金融サービスを提供しています。ですが、それで採算がとれるのは、多くの資産を預けてくれる富裕層が顧客だからです。企業の社員をはじめ、資産形成層向けの金融サービスは、どうしても1人の顧客から得られる収益が小さくなってしまうのが、現実の問題としてあります。

渡邊 実は、企業の社員向けのサービスで成功している事業者はあまり見当たりません。富裕層向けのサービスのように人手をたくさんかけることは収益性の観点ではできない。かといって、デジタルだけで完結させる資産運用サービスでは、お客様の理解や納得、悩みの解決について心配なところがあります。そこで我々が目指すのは人とデジタルのハイブリッドです。JAMの持つ人によるアドバイスの利点と、NECの持つテクノロジーの利点をうまく掛け合わせて、これまで誰も提供できなかったアドバイザリー・サービスを実現したいと思っています。
最適なアドバイスを提供するという意味では、こうしたサービスはAI(人工知能)等に置き換わるという議論もあります。私もAIの力を強く信じていますが、その一方で、信じきってもいません。AIのほうが論理的に正しい答えを出せるとしても、お客様がちゃんと理解して納得していただくために、人が介在して寄り添うことが必要です。人が投資をするまでのプロセスに0から100まであるとすると、1~99はデジタルが、0~1と99~100の重要な意思決定ポイントは人が担うべきだと考えています。もちろん、全部デジタルで良いというお客様にはデジタルを選んでいただく。少なくとも選択肢を用意することが大事だと思っています。

沓掛 デジタルの力によって、標準化できるところを徹底的に標準化しても、それでは対応しきれない部分が出てきます。特に「信頼を得る」という部分は、ヒューマンタッチが必要だと。NECはデジタルの限界を明確に理解しているからこそ、あえてヒューマンタッチのIFAと資本業務提携したのは興味深いです。協業を通じた新しい金融事業は、既存の金融機関向けサービスにどのように活かせるとお考えでしょうか。

渡邊 2つあります。まず、JAMをベースに人とデジタルのハイブリットサービスを開発し、そこで磨いたデジタルテクノロジーやソフトウエアを他の金融機関様にも提供することで、デジタライゼーションを支援したいと思っています。2点目が、IFAは金融商品仲介業ですから、既存の金融機関様とも共存できるビジネスモデルがつくれる。つまり、我々が金融業務のアウトソース先となって、これまでリーチできなかった先に我々が営業を代行してもいいですし、金融機関のお客様がご負担に感じられている業務を我々が引き取ってもいい。そういう金融業同士としてのコラボレーションが可能になると考えています。

未来へのワクワク感が推進力になる

沓掛 渡邊さんは日本の大企業では「若手」とされる30代ですが、ビジョンを掲げて形にして、会社組織としての意思決定を主導し、M&Aも含めて実行していくプロセスを推進されました。大きなものを動かす意思決定に怯むことはないのでしょうか。

渡邊 新しい事業はまだこれからという面もありますが、これまでも多くの意思決定をしてきたと思います。もちろん怖さはありますが、圧倒的に楽しさが勝っています。考えてみれば、普段の業務も人生も意思決定の連続です。意思決定をし続けて今の自分がある。だから、意思決定の怖さはそこまで感じなかったし、意思決定した先の未来にワクワクしました。新規事業やM&Aだからという特別感はなかったです。

沓掛 新規事業をつくるだけでなく、既存事業を深めていくときも、日々意思決定の連続だという考え方は、我々が実践していることと共通するところがあります。IGPIグループでも、20代や30代のうちから、失敗を恐れずに小さな意思決定を1つ1つ積み重ね、決めたことをしたたかに推進することを奨励します。そうした経験の蓄積が真の経営人材につながると信じているからです。

渡邊 NECも手を挙げれば、年齢に関係なく、割と自由にできる社風だと思います。私はもともと新規事業の開発がミッションなので、今回のプロジェクトも最初は私1人で検討を始めましたが、途中で社内公募も含め参画したいというメンバーが増えていき、今回のJAMとの資本業務提携を完了した時点では7人になりました。その間、時間のかかる地道な作業が続きましたが、やり遂げられたのは、金融業という新領域にチャレンジすることや、直接コンシューマ向けに提供できるサービスであることに共感し高い意欲を持ったメンバーが集まっていたからです。
また、社内の環境にも恵まれていると思います。今回のプロジェクトが実現したのも、上司や経営層のサポートがあったからです。技術面では、同じ部門内で最新技術を研究しているメンバーに検証を手伝ってもらっています。こちらからコミュニケーションを重ねていくと、段々と研究側のメンバーからも「金融業にはこの技術が使えるのではないか」と提案してくれることが増えてきました。今後いろいろなコラボレーションが生まれそうで楽しみです。

沓掛 おっしゃるように、大企業の新規事業開発では、本気で取り組めば優秀で熱量の高いメンバーも集まりますし、幅広い領域からの知見も得ることができます。私は多くの新規事業開発をご支援していますが、現場のリーダーが強い情熱とロジックを持ってぶつけた新規事業が、社内で通らなかったことは見たことがありません。立ち上がらずに終わってしまう新規事業では、稟議が通らないというより、担当者が自ら制約や限界を設けてしまうケースが多いのです。今回、渡邊さんは新しい事業の面白さを信じつづけて進んだからこそ、周囲・上司や経営層のサポートを得ることができたのだと思います。
最後に、今後の事業の展開について聞かせてください。今回立ち上げられたNECの資産運用サービスは、資産形成の社会課題を解決し、業界プラクティスを変え、あるいは政策にも影響を与える可能性も秘めていると思います。

渡邊 まずは資本業務提携を行ったJAMと一緒に事業拡大を加速化させることが、足元のミッションです。自らが使いたいサービスを作ろうという考えに立って、まずはNEC社員向けに資産形成サービスを立ち上げましたが、ゆくゆくは日本の多くの皆様にも使っていただけるサービスにして、金融経済の土台作りを下支えできればと思っています。そして、私としてはこの取り組みを第一歩として日本をより元気にしていきたいです。

沓掛 社会課題の解決に関してはスタートアップの活躍も目覚ましいですが、「社会課題を解決する」「日本を元気にする」可能性は、実は大企業こそ持っていると、私は考えています。優秀な人材が多く揃い、技術をはじめ幅広い知見が蓄積している。多くの経営資源を投じてゲームチェンジを起こすこともできる。私はこうした可能性を、新規事業を共に推進することを通じて実現したいと考えています。
この事業の今後の展開がとても楽しみです。本日はありがとうございました。

  1. TOP
  2. メディア
  3. Next Leaders' note
  4. NECが挑む金融の新価値創造 ―デジタルと人のハイブリッドで目指すフィナンシャル・ウェルビーイング