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経営者直下のポジションで起業力を磨く ―VENTURE FOR JAPANが提供する新しいキャリアの選択肢

一般社団法人VENTURE FOR JAPANでは、起業家を志す若者や成長意欲の高い若者(主に新卒・第二新卒)を地方の企業に紹介し、若者が経営者直下の事業責任者として2年間働くプログラムを提供しています。その4期生として、宮城県の老舗企業・株式会社きちみ製麺において日々全力で仕事に向き合っている増渕岳大さんと、IGPIマネジャー兼VENTURE FOR JAPAN理事の的場大楽が対談しました。

起業でも就活でもない第3の選択肢

的場 VENTURE FOR JAPAN(以下VFJ)は宮城県女川町のNPO法人アスヘノキボウのプロジェクトとして、当時アスヘノキボウの代表を務めていた小松洋介氏(現VFJ代表理事)を中心に立ち上げられた事業です。IGPIは、VFJの「若者のポテンシャルを解放し、地方の経営人材不足を解決する」というビジョンに賛同し、設立メンバーの一員として一般社団法人を立ち上げました。私は法人化の構想段階から携わり、設立後は理事を務めています。
現在、様々な大学でアントレプレナーシップ教育が取り組まれていますが、多くの大学・教員の方々の悩みは、卒業後に実際に起業する学生は僅かであるということです。卒業直後から起業を選択できる学生は少なく、多くの学生は就活で「とりあえず」東京の大手企業・有名企業を目指す傾向が依然として根強いです。しかし、現在の新卒一括採用の就活システムは若者に適切な機会を提供できているのか? VFJはそのような現状に対し、起業でも大手企業への就職でもない、地方の成長企業の経営者の右腕という第三の選択肢を提示しています。増渕さんはどのようにしてVFJを知ったのでしょうか?

増渕 IGPI会長の冨山和彦さんの『コーポレート・トランスフォーメーション』を読んだことがきっかけです。「事業とは、『業(わざ)によって事(こと)をなす』ということ」「人の役に立てる業(わざ)を持てれば、それなりに食えるようになるし、その上で業(わざ)の余力があるなら、世のため人のためにそれを使う自由度も生まれる」と書かれていて、その文脈でVFJが紹介されていました。このほか、株式会社刀の森岡毅さんにも触発され、通常の会社員とは違う働き方をしたいと考えていました。リーダーシップという自分の強みを活かしながら、大きい事業・組織の一部ではなく、小さくてもよいので事業・組織全体を引っ張る経験を得たいと思い、VFJに応募しました。

的場 増渕さんが就業先として選んだのは、青森県に所在する八戸東和薬品です。なぜ同社で働こうと思われたのですか?

増渕 リーダータイプには、孫正義さんや三木谷浩史さんなどビジョンドリブンな創業者系と、柳井正さんのような事業継承した二代目系がいます。私自身はビジョンドリブンな考え方をするタイプですが、八戸東和薬品の高橋社長は二代目系で、静かに語り、知的な哲学者のようで、私の知っているリーダー像とは違いました。幅を広げるためにも、自分と異なる思考をする経営者のもとで働きたいと思いました。

的場 普通の就活では、会社の事業や仕事の内容を気にしても、どのような組織を動かし、どのような経営者の下で働くかまではなかなか考えません。自身のパーソナリティを見極めた上で、自分が主体となって組織を動かす経験を重視し、社長を見て就職先を決める。そのような会社選びはとてもVFJらしいですね。ただ、新卒で大企業に入るプレミアムを捨てることに躊躇はなかったのでしょうか?

増渕 めちゃめちゃ怖かったです。それでも考え抜いて、最後は「えいや!やるしかないな」と腹を括りました。

リアルな経営現場に向き合い、組織変革に挑戦する

的場 勇気ある選択ですね。入社後はどのような仕事をされてきたのでしょうか?

増渕 初めの3カ月は八戸東和薬品の経営企画室で新規事業開発に取り組み、その後、青森県おいらせ町で廃業旅館をリモデルし、温泉を活かした新しいデイサービス事業「米寿温泉」の営業やマーケティング、PRを担当しました。2023年2月から、宮城県のきちみ製麺で事業責任者として働いています。きちみ製麺は白石温麺という伝統食品を手掛ける創業125年の会社で、事業継承で2022年初めに八戸東和薬品のグループ傘下に入りました。私の担当は既存事業のマーケティングや営業で、売上・営業利益の責任を負っています。そのほか新商品開発、組織全体へのミッション・ビジョン・バリューの浸透、生産管理、採用など、事業に必要なことには全て関わっています。

的場 通常の新卒では得難い、素晴らしい経験をされていると思います。一般的に成長速度が速いと言われるコンサルティングファームでも、新卒入社1年目は下積みで終わることも多いです。議事録を書く、データを解析する、資料を作成するといった作業者的なポジションから入り、若手はそこから抜け出そうと足掻くプロセスを経ていきます。それに対し、いきなり経営の重要な論点を担う経験をされている様子は、とても感心しています。ただ、歴史ある企業の現場に若者が入り込むことには、様々なハードルが待ち受けていたと思います。どのような壁に直面し、乗り越えてきたのでしょうか?

増渕 きちみ製麺は高橋がリモート経営し、私は経営と現場のハブとなって変化を起こす役割を期待されています。約30名の大きくはない組織ですが、その中でも組織の論理や人間関係が優先され、本来の目指す姿とは異なる方向に向かってしまう状況もありました。組織論ではよく2:6:2と言われます。変化に前向きな2割、抵抗する2割、どちらにも転ぶ6割だと。実際にその通りで、抵抗の圧力を感じる場面もありました。特に、私にはビジネス経験や実績がありません。本当に社長の意図に合致しているのかと迷いながらも、前に進めなければならない。そのときに、論理を説くだけでは通用しません。そうなると、人間的魅力で勝負するしかないのかなと。素直さや愛嬌などのキャラクター部分で何とかやりくりしている状況です。

的場 組織に本気で向き合っている様子がとても伝わってきます。IGPIで大事にしている考え方に「合理と情理」というものがあります。企業の経営支援では、ファクトとロジックに基づいて戦略を策定しますが、いざ実行となると、「合理」だけではヒトを動かせません。目の前の1人1人の生身のヒトに、どうすれば動いてもらえるのか、非常にウェットな人間関係、「情理」を見極めて仕事をします。
増渕さんは既にそこに気づかれて、1人で実践していますね。きちみ製麺で半年が経った今、社内の変化を感じますか?

増渕 課題が表に出てくるようになりました。問題をあぶり出せれば、それを解決さえすればいいので、これは前進だと捉えています。組織はそうガラッとは変わらないですし、小さな課題解決の積み重ねが大切かなと。高橋社長も変革に3~5年はかかると見立てています。

的場 着眼している変化がとても面白いですね。「課題」が社員から出てくるようになるためには、その前段として「目指す姿」は何なのか、その目指す姿に対して現状はどれだけ距離が離れているのかを、共通認識化する必要があると思います。しかし新しい「目指す姿」の目線合わせは、長年変化がなかった同質的な組織ほど難しいです。一方、目指す姿・現状とのギャップが一度認識されると、社員の方から「ここが課題だ」という指摘がどんどん出てくるようになる。そのような変化が起こり始めているようですね。
ところで多くの企業はビジョンを設定しますが、それが抽象的であるなどして現場に落ちていかない状況もよく起こります。その翻訳は増渕さんがされているのでしょうか?

増渕 そこは組織面で乖離を感じる部分です。特に、M&A(合併・買収)によって買収された会社は、新しいビジョンに共感した社員だけで構成されているわけではありません。自らバリューを体現してしつこく伝えたり、新商品開発を通じて会社が新しい方向に向かっていることを実感してもらったりすることに取り組んでいます。

本質を考え抜くプロフェッショナルを目指す

増渕 今は戦略策定よりも、次々と発生する問題の解決のために体当たりで実行部分を担って、自分で自分を鍛えています。IGPIの方は思考と実行のバランスをどう育てているのでしょうか?

的場 実行フェーズにおいても思考力は鍛えられます。実行フェーズでは、全社的な戦略も拠り所にはなりますが、常に局面を見極めて実行プランを修正してPDCA(Plan-Do-Check-Action)を細かく回していくからです。
筋のいい戦略やプランを導き出すときに必要な能力は3つあると思っています。1つ目はロジカルシンキング。これはプロフェッショナルに求められる基礎スキルです。2つ目が経験。30年選手と歴3年の若手では、アナロジーに基づく洞察力がやはり異なります。3つ目は本質的な課題に行き着くための思考体力です。本質的な課題は何かと想像力を巡らせてとことん考えることは、ロジカルシンキングとはまた異なる能力だと思います。
IGPIに入社すると、自分のアウトプットに対して考えが浅いというフィードバックを受け続ける期間が多くの方に待ち受けています。答えがない問いに対して、自問自答して筋の良い解を捻りだしていく。そのときに必要なのが、本質的な課題に頭をめぐらせることから逃げないこと。それがプロフェッショナル・マインドだと思います。

増渕 世間一般では、そういったマインドがない人もいます。Professionは「宣言する」が語源ですが、個人として宣言してプロフェッショナリズムを鍛えるのか? それとも、IGPIではプロフェッショナルになるための仕組みがあるのでしょうか?

的場 仕組みがあって育てるというよりは、思考するポテンシャルのある方を採用して、個々人が成長する環境・タフアサインメントを設けています。もちろん社内研修や育成制度は充実していますが、それらはあくまでもツールの1つに過ぎないという考えです。

増渕 「考えが浅い」と言われるフィードバックは、自身の課題を認知に繋がるためとても重要だと思います。IGPIではそのような機会が日常的にあることは魅力的に感じます。VFJでは半年に1回の集合研修に参加しており、同期同士でお互いの仕事にフィードバックをしています。

的場 VFJでは日本の社会課題解決を担う人材や起業家が巣立っていくことを目指しており、お送りした若者を放置しません。就業当初は5日間、ビジネスマナーから始まり、財務モデリングや事業経済性、ロジカルシンキングなどをIGPIのプロスタッフも講師となってインプットします。その後も毎月のメンタリングで伴走するとともに、半年に1度、中間研修を実施しています。中間研修は、全国の同期が集まって互いに半年の仕事を振り返り、今後どうするかを宣言する場となっています。

増渕 全国にいる同期の存在はとても大きいです。一緒に飲んで、悩みを吐露できたり、いろいろと語れるのは、すごく励みになります。

社長が見ている世界から、自分のキャリアを考える

的場 社長直下で働く中で、企業や事業の見方で変わったことはありますか?

増渕 経営者の近くで働き、経営者の目線で考えることができるのは、VFJの魅力の1つだと思います。たとえば、会社員は予算に対して売上・コストはどうかとPL(損益計算書)思考になりやすいですが、実は予算の前に、その事業のためにいくら投資をし、いくら借金をしたのかという資金調達の段階があります。借入金の返済にも目を配る中で、BS(貸借対照表)から会社が出来上がっていく世界を肌身で実感できました。
また、現場ではどうしても目の前の課題に追われますが、高橋社長は一過性の業績ではなく、長期的に重要な資産になるかどうかを考えます。施策の議論をする中で、「きちみ製麺のビジョンに照らして、100年後を考えたときにその施策はどうなの?」と聞かれましたが、それは自分にはなかった視点でした。自分と違う思考タイプの人間と働けるのは面白いです。

的場 VFJを通じた2年の就業後、今後はどんなキャリアを歩もうと考えていますか?

増渕 まだ具体的な計画はないのですが、今の仕事はいったん2年で区切りをつけて、今後のキャリアを考えてみるつもりです。将来的には、既存事業の拡大よりは、変化を起こして、世の中の人に役に立てる存在として頑張りたいと思っています。これを変えれば世の中はよくなるというレバレッジポイントを見つけて、自分独自のビジョンを持てたら、事業をつくって、仲間を集めて、解決していく組織をつくる。30代、40代でそういう勝負ができる人間になりたいです。

的場 今日のお話をうかがって、増渕さんのご経験で素晴らしいと思ったことが3つあります。1点目は、自ら目指す姿や課題を設定し、どう課題を解決すべきか頭をフル回転させる仕事を、新卒1年目の段階からされていること。2点目は、会社全体を俯瞰し、PL/BSで事業を捉える経営者の視点を獲得されていること。3点目は、極めてウェットな生身のヒトに向き合い、リアルな組織を動かそうとされていることです。
こうしたキャリアは、誰にでも向いているわけではないと思います。大きな組織で下からキャリアを積み上げていくスピード感では窮屈だと感じる、成長意欲や志のある若者に、新しい選択肢を提供するのがVFJの役割です。将来的には増渕さんのような若者を毎年100人、200人と地方の成長企業に送り出したい。社会課題と向き合えるローカルにおいて、新しい事業の立ち上げや、既存事業の躍進を担う人材を数百人規模で輩出できれば、VFJは日本の社会を変えるムーブメントに進化していくはずです。
VFJとIGPIは、増渕さんやVFJにジョインした若者の活躍・挑戦を、これからも全面的に応援・サポートしていきます。

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