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デザインの力で組織を変革する ~IGPIグループのブランディングプロジェクト~

IGPIグループは「経営と経済に新しい時代を切り拓く」という理念の下、志を共にする人々を惹きつける施策の一環として、2023年8月にビジュアル・アイデンティティ(VI)を一新しました。本プロジェクトを支援したモンスターラボの藤川裕介さんとIGPIの木村静がデザインと組織の関係、デザインの力を用いた組織変革について対談しました。

「真にイケてる会社」にトランスフォーメーション

木村 IGPIグループのブランディング・プロジェクトを立ち上げたのは、私がIGPIに入社したときに、「真にイケてる会社にトランスフォーメーションしてほしい」というミッションを頂いたことがきっかけです。最初に「イケてる会社」の意味を考えました。企業ビジョンやメッセージが明確で、細部まで落とし込まれ、洗練されている状態かな、と。それを出発点にIGPIをさらに深掘りしていくと、入社前に抱いていたイメージよりも遥かに活動範囲が広く、その1つ1つが社会・経済にとって本質的な価値がありました。活動の中身は誰がどう見ても「イケてる」し、社内のメンバーも強い思いを持って真摯に取り組んでいる。その一方で、メンバーの間でも、外から見ても、人によってIGPI像にはバラツキがあり、組織としてのまとまりに欠ける状況でした。
もともと私は、こうした組織の課題の多くはコミュニケーションで解決できるはずだと考えていたので、まずは社内で「IGPIとは何か」を言語化し共有することに取り組みました。事業領域を整理して各事業ミッションを策定したり、共同経営者(パートナー)全員に行ったIGPIグループの在り方に関するインタビューや全社員を対象に行ったワークショップを通して、IGPIグループのパーパス(存在意義)を再確認し、言葉に落とし込んだりしました。
共通言語化できたこの段階で活動を終えることもできましたが、再確認した「経営と経済に新しい時代を切り拓く」というパーパスに近づくためには、IGPIグループ内外で志をともにする若手や顧客などの「真の経営人材」を持続的に惹きつけ、共創活動を更に広げていく必要があります。そこで、モンスターラボさんにお声がけして、あらゆる活動で「IGPIらしさ」が伝わる仕組みをつくるために、ビジュアル・アイデンティティと、活動の発信基盤としてのコーポレートサイトを一新することにしました。

藤川 コーポレート・ブランディングには2種類あります。1つは外側のブランディングです。ロゴなどのビジュアル・アイデンティティやサイトを変えて、統一した見た目をつくっていく。もう1つは表層に表れてこない、内側のブランディングです。会社がどのような想いを持ち、どの方向に進んでいきたいか。どういう未来をつくっていきたいかといった部分です。
一般的には、ブランディングは外側を指すことが圧倒的に多いと思います。一方、内側のブランディングはすぐに数字などの結果に出てきませんので、軽視されがちです。ですが、そうすると「見た目はいい感じだったのに、実際に入社したら微妙だった」「中で働いている自分たちは意思統一もできていなければ、サイトに書かれたことを全員が目指しているわけでもない」といったことが起きてしまいます。そうなると離職率や企業価値の低下など、徐々に悪影響が出てくるのですが、労力の割にすぐに目に見える結果に直結しないので、内側のブランディングにフォーカスして考える日本企業はそれほど多くありません。
通常のプロジェクトでは、内側から定義していくことの重要性の説明から入るのですが、IGPIさんは最初から、内側から外側につながっていないと、イケてる会社にならないと気づかれていた。これはすごいですし、だからプロジェクトがスムーズに進められたのだと思います。意思決定が早くできる、競争優位性が高まるなど、ブランディングのメリットを挙げればたくさんありますが、中の人が共感できるかどうかが重要ポイントになります。

木村 確かに、内側がバラバラな状態で、局所的に課題を解決しても意味がありませんよね。新たなテクノロジーの勃興や揺れ動く国際情勢など、見通すことのできない非連続な変化が日々起きるなかで企業変革をするためには、「我々は何を成し遂げたいか」というパーパスを明確化して、全員が共通のゴールを持った状態で、その企業らしい意思決定ができる状態まで浸透させていくことがポイントです。そうした組織文化を醸成するためには、企業活動のどこを切り取ってもぶれない軸つくる必要があり、それがまさにコーポレート・ブランディングだと感じています。

組織の思想をデザインに落とし込む

木村 プロジェクトの最初に、IGPIの企業理解・整理をかなり入念に行いましたね。特に印象的だったのが、12の性格アーキタイプを使ってブランドパーソナリティを言語化したことです。議論を重ねて辿り着いたのは、Sage(深い知識と洞察力を駆使して、最適な判断と果敢な決断を自ら行う)、Explore(広い視野と高い視座を以って探索し、発見と開拓を先導する)、Rebel(常識に縛られない視点で本質に向き合い、粘り強く変革を進める)という3つの顔をIGPIは出し分けているということ。IGPIには投資家としての顔、経営者としての顔、アドバイザリーの顔などがあり、クライアントとの接し方も硬軟を使い分けています。

藤川 言葉も形もデザインの一部ですが、特に日本語は抽象的で、わかりにくいところがあります。たとえば、「かわいい」という言葉から連想される範囲はかなり広いので、「元気なかわいさ」というように言葉を付け足して具体化し、頭の中のイメージを擦り合わせしていく作業を行う必要があります。
その作業はデザイナーが1人で行うこともありますが、「たぶんこれだろう」と考えて提案したものは、皆さんの腹落ちに時間がかかります。それで果たして自分たちのことを表現しきれているのか、もっと考えるポイントがあるのではないか、と思ってしまいますよね。ブランディングでそういうしこりが1つでも残っていると、どうしても納得できないし、十分に使っていただけないこともあります。そこで抽象的な言葉、それも単語レベルから、皆さんと会話してピントを合わせて、お互いのイメージが揃った状態で、具体的な形に落としていくことで、精度を高めています。

木村 IGPI側のメンバーもこだわりが強く、ブランドパーソナリティで用いる単語も一つ一つ話し合いました。社内でもこの言葉選びはすごく好評でした。振り返ってみると、ブランドパーソナリティ自体はビジュアル・アイデンティティとして外に出すものではありませんが、そこに一番時間をかけて議論したからこそ、最終的に説得的で納得感のある表現が出来上がったのだと思います。

藤川 ブランディングの議論に参加しなかった社内の他の方々にビジュアル・アイデンティティの説明をするときにも、こうした概念や人柄のイメージからその形ができたことを伝えれば、腹落ち感が変わってくるはずです。

銀河のように活動領域を広げる

藤川 実際にビジュアル・アイデンティティをつくる段階では、今までのイメージと完全に異なるものにするよりも、IGPIさんが今日まで積み上げてきた信念やリソースをベースに、この先を見据えたアウトプットにすることが重要だと、個人的に感じました。
そのヒントになったのが、パーソナリティの議論で、陶芸の写真がイメージに合うとおっしゃっていたことです。海外、最新、最先端という見え方よりも、土っぽさ、手触り感があり、職人が自分と向き合いながら心身を削って生み出す。それをベースに、これまでのロゴや主なカラーリングを継承しつつ、わかりやすく、シンプルかつ強いイメージで、人それぞれ意味合いを解釈する余地も残っている。そういうアイデンティティの在り方がいいと思いました。
その在り方をクリエイティブに落とし込むために設定した「Form and Formless」というコンセプトも同様で、変わらない太い芯があってブレないけれど、見え方ややり方を変えることには躊躇しない、相反する2つの性質を持ち続ける。そういったIGPIさんの強みをコンセプトに込めています。
Formlessを表現したグラフィックエレメントは、ロゴの形状から削り出した形を展開し、2Dですが、奥行きを出して広がりを持たせました。一部を切り取った形で様々な制作物に適用することで、空間や媒体の枠を越えてつながることを表現したアイデンティティです。皆さんにIGPIっぽいと言っていただけたのは、私としてはすごく嬉しかったです。

木村 ロゴから削り出された形を見て、IGPI Galaxyという名前がすぐに出てきました。経営と経済を切り拓いて、その先に銀河がどんどん広がっていく世界観が見事に表現されていると思います。
色や形状について意思決定の瞬間はたくさんありましたが、そのときに意識したのが、何千人、何万人に愛されるブランドよりも、IGPIを本気で好きになってくれる100人をつくることです。一見して意味がわからなくても、じっくりと噛みしめれば、IGPIらしくて、私は好きだと思えるものだといいなと。結果として、ある意味、「宗教」ともいえるようなものが出来上がった気がします。
それから、アート作品ではなく、どの場面でどう使うかという機能性も重視しました。斬新で、見た人に立ち止まって考えさせるような良い意味での違和感を少し持ったIGPIらしいクリエイティブを、すぐに作れるものになったと思います。

デザインを使って、人、会社、社会に働きかける

木村 新ビジュアル・アイデンティティの運用を開始してから、組織内の人々への影響をすごく感じています。例えば、自分が好きな組織にいるという自己肯定感が高まったという方もいました。
社内展開にあたって、「真の経営人材」の在り方や各事業のユニークネス、デザインに込めた想いなどを暑苦しいほどに、毎日社内に向けて発信しました。そのおかげかどうかは分かりませんが、ウェブサイトや名刺等に施したIGPI Galaxyを見ることで、自分は未来や新しい時代をつくる仕事をしているのだと感じたり、日々のプロジェクトでIGPIのプロフェッショナルとして求められる水準は何かを自省する機会になったりしていると聞いています。

藤川 会社の未来を言葉で語り合う機会はそれほど多くないと思いますが、デザインされたものを1つ間に挟むだけで、好き嫌いや、こんな見え方ができると感想を言うなど、今までなかった会話が組織の中で生まれます。1つのデザインを見て、全員が同じ感想を持つ必要はありません。全く意図が伝わらないのは良くないことですが、大きな方向性は共有しながら、細かな差分のところで個々人で異なる感想を持ち解釈ができる。そこから、お互いを知るきっかけや一体感につながり、いろいろな媒介になると思います。それは感覚的に理解できるデザインならでの良さで、デザインが組織に与える一番大きな影響だと思います。

木村 確かに、今まで考えたことのない角度での会話が社内で起きています。今回の作成過程で議論した、IGPIらしさ、今後のありたい姿、どういう人材を惹きつけて育てたいかということを、それらの最大の体現者である社内のメンバーとコミュニケーションをとることで、数年後に改めてデザインを見たときに、「この通りIGPI Galaxyは広がり続けているね」と言える組織にしたいと思います。
また、IGPIの理念の一つに「知識集約化の進展する世界の経営と経済における新たなパラダイムの構築に大きな役割を担う」というものがありますが、それは自分たちの活動を対外的に発信してこそ実現します。対外的なコミュニケーションを通じて、尖った存在になる。メンバーの活動を通じて、「時代が変わる分岐点にはいつもIGPIがいるよね」と言われる。そんなユニークな存在感を作れればと思っています。
藤川さんは、デザインを通じてどんな世界をつくっていきたいと思われますか。

藤川 デザインというものは、環境が育むところもあります。たとえば、デザインの最先端は欧州だというイメージがありますが、その前に各国の文化があり、そこから美意識や空気感が生まれています。日本の文化には、茶の湯のような美意識がある一方で、西洋的な文化が入ったタイミングで、繁華街のネオンに代表される、ごちゃごちゃしたカオスも生まれました。海外デザイナーはそこが日本らしいと注目しますし、それはそれでいいものです。中身があれば、外見や見た目など関係ないという考え方もありますが、みんなが美意識や文化への感度を高めていくことが大切だと思っています。
それから、社会や組織がどうありたいかを考えて、そこを源流にデザインを創るだけでなく、デザインから社会につながっていくことも可能です。みんながデザインやブランディングを理解し、日本らしさを作っていこうよという空気感が出てきて、イケてる社会になっていけば、デザイナーとしてすごく嬉しく思います。

 

モンスターラボのオウンドメディア「DESIGN JOURNAL」でも今回のビジュアル・アイデンティティの刷新についての記事を公開しています。あわせてご覧ください。
徹底的な対話の先に「らしさ」を削り出す。IGPIが経営活動として取り組んだビジュアル・アイデンティティの刷新

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