事例

地域社会の未来を共に創る空港ビジネス [マジョリティ投資・事業経営]

空港を超えた空港ー「空港型地方創生」を実践する

日本の観光立国に向けたアクションプランの1つである空港民営化。黒字経営の主要空港の民営化は一巡する一方、国内の大多数を占める地方空港の多くは構造的赤字の状態となっている。 こうした中、IGPIグループの南紀白浜エアポートは地方空港民営化の第1号案件であり、まさに今後の空港民営化が加速するかの分水嶺のプロジェクトと言える。本事例では、日本における空港民営化の仕組みづくりや空港を経営する企業・地域の支援を行ってきたIGPIグループが取り組む、熊野白浜リゾート空港の「空港型地方創生」について紹介する。

誰とともに、何に挑んだのか?
既存の空港の枠組みを超えて、航空需要を自ら創出する

一般に空港の事業収支は固定費の比率が高く、発着便数が少ない地方空港はどこも構造的赤字に陥っている。再建に向けてはコスト縮減も重要だが、安全・安心を最優先する観点から限界がある。このため、空港利用者数を増やして収入を増やすしかない。しかし、空港自体を磨き上げたからと言って空港利用者が増えるわけではない。空港は地域に観光・ビジネスの用事がある、または地域住民が旅行・出張の用事があってはじめて使われるのである。 この点、南紀白浜は年間300万人が訪れるビーチ・温泉・パンダが人気の関西屈指の観光地である。だが、夏や週末には多くの観光客が訪れるが、夏以外や平日の来訪客が少なく、閑散期の施設稼働率は繁忙期の半分程度にとどまっている。また、関西圏からの短期滞在客が多く、消費単価が低いため、地域の稼ぐ力が発揮できておらず、平均所得も全国最下層に位置している。さらに人口減少も加速度的に進んでおり、観光地としての持続可能性も不透明である。このような困難に直面している観光地は南紀白浜だけではないだろう。 こうした状況を踏まえ、南紀白浜エアポートでは「空港の発展は地域の発展から」をコンセプトに、航空需要そのものを地域で創出する事業を立ち上げた。

非連続的な変化に向けた取組み
空港が地域課題をビジネスで解決する

例えば、誘客・地域活性化の専門部署を設立して、地域の魅力を商品化して実際の誘客にまで繋げる着地型旅行事業(紀伊トラベル)や、顧客視点で地域を広域でマネジメント・マーケティングする地域連携DMO事業(紀伊半島地域連携DMO)を展開している。

また、地域の実情を踏まえて、地域の既存客とは全く異なる「首都圏から年間通じて平日に高単価で来訪して人口増加にも繋がる層」をターゲットとした。具体的には、企業のワーケーション・合宿・研修・実証実験・サテライトオフィスなどのビジネス誘致である。空港が和歌山県公認の企業向け地域コーディネーターとなり、自治体をはじめ、宿泊・交通・飲食・体験の観光事業者や大学・銀行・一次産業・IT企業などの地域事業者まで、地域のあらゆるステークホルダーと繋がり、呼び込んだ企業とのマッチングや事業コーディネートを行っている。 地域において新しい客層を受け入れるのは容易ではない。日常的に地域ステークホルダーとビジョンや課題を共有し合い、何年もかけて地域事業者と交渉を重ねながら企業向けのコンテンツ開発や受入体制の整備を行い、ビジネスベースで1件1件の実績をひたすら積み重ねることで、地域の理解と信頼を得ることを実践している。

経営・経済の歴史へのインパクト
地域の社会課題と都市の企業課題の解決で日本を変革する

これらの取り組みを通じて、南紀白浜はここ数年で日本におけるワーケーション発祥の地、そして聖地として観光客だけではなく都市部企業にも選ばれる地域となった。大企業をはじめ約20社がサテライトオフィス進出を行っており、組織変革や事業創出・人材育成の場として活用している。実際に南紀白浜では、顔認証を活用した地域まるごとDXや画像認証・衛星技術などを融合させた空港DXなど、最先端のイノベーションが創出されているが、これは多様な企業が共創して地域全体を実証フィールドとして活用した結果である。都市部企業にとっては、「越境体験による知の探索や生きた社会課題によるビジネス共創の場」となっているのである。 空港ではこれまで200社の企業に対して累計3,000件の受入手配を行っており、新型コロナウイルス感染症の影響を受けながらも空港利用者が民営化後5年で約2倍に増加する異次元の成長を実現した。しかし、それ以上に観光地における平日需要の底上げや企業誘致を通じた事業創出による地域全体への経済波及効果は計り知れない。

このように、既存の空港事業の枠にとらわれず、空港・地域に本質的に必要な固有解を突き詰める空港は世界的にも例を見ない。南紀白浜エアポートの「空港型地方創生」は、空港を超えて、地域の社会課題と都市の企業課題の同時解決を通じて日本全体を変革していく事業モデルへと発展を続けている。

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