事例

ディープテック起業のエコシステム構築 [インキュベーション]

大学、そして学生とともに「起業」×「研究の知」が生み出す付加価値のスケールを変容させる

2021年秋、東京大学初のディープテック起業にフォーカスをした講義である「アントレプレナーシップ教育デザイン寄付講座」が開設された。(https://entredu.t.u-tokyo.ac.jp/
IGPIは本講座の寄付企業になるとともに、講座企画・運営のコントロールタワーとなるメンバーを常駐で派遣する等、研究・教育の心臓部である大学という場で、学生自らが知らず知らずのうちに変容していく仕掛けの支援を行っている。

2021年時点において、東京大学発の起業は着実に実績を重ねつつあったものの、その領域には大きな偏りがあり、工学部・工学系研究科の本丸であるものづくり領域における起業は非常に少ない状況であった。「大学で発見・開発される先進的な技術をもって、社会にインパクトを与えるような課題解決をもっと起こしていきたい」「卒業生がもっと世の中を良くしていく存在となってほしい」 当時学部長・研究科長であった染谷隆夫教授(現在は副学長、スタートアップ・知の価値化担当)の想いにも共感し、鋭い産業理解を有する教授陣(講座代表の坂田教授、各務教授、松尾教授、田中准教授)、そしてIGPIとも関係が深く、同じ問題意識・理想を持っていたKDDI、UTEC、松尾研究所とともに、わずか数か月で本講座を立ち上げる運びとなった。

誰とともに何に挑んだのか?
ディープテック起業を輩出し続けるエコシステムを創り出す

どうしたらディープテック起業を輩出し続ける世界への一歩を踏み出せるのか?起業するうえでの知識や手法を伝えるための素晴らしい講義は既に東京大学内に存在している、そういう部分は当該講義と接続していく方がむしろ良いだろう。そんな割り切りも一定程度持ちながら、学生のうちから「研究の知」と「事業」をリアルに結び付けて考える熱い機会をとにかく提供していき、「研究で、自分の力で、世の中を変える」という新しい文化を広めていくことこそが、本講座のバリューとして定められた。また、今目の前にある「点」だけで課題や可能性を考えるのではなく、「線」「面」へとグローバルに広がる産業としての世界観を意識できる講義設計やメンタリング体制を構築することとした。

非連続な変化に向けた取り組み
妄想とリアリティを両立させる実践的な講義を創る

一にも二にも実行あるべし、はどんな挑戦にも普遍である。IGPIでは、本講座への心からの共感とその実行能力を持ち合わせるメンバーで体制を構築し、常駐メンバーが講義企画・運営のコントロールタワーを担いながら、常に共闘するIGPI流ハンズオン支援を現在も継続中である。講義を創り、進化させていくにあたっては、学部生と大学院生の間にある人生経験や有する技術知見の差は意識しながらも、いずれも小さい風呂敷の範囲で何とかうまくやろうという冴えない発想にならないよう、教室を飛び出たフィールドワークやメンタリング機会を豊富に設計し、自ら切り拓かざるを得ない環境を準備することとした。一方で、「世の中を変える」ために必要な資金や人材のリアリティを早めに知ることも重視し、IGPIで提供するツールも活用しながら目指す姿を定量化していくことも求めることとした。資金を集められる範囲で実現しようとしたり、集められないから出来ないというのではなく、集めるためにどうすればいいのかを自ら考えることが「研究で、自分の力で、世の中を変える」という新しい文化の浸透には必須なのである。

なお、資金を出す側の改革も併せて必須であるとIGPIでは考えており、本講座卒業生発も含むスタートアップ企業が世界で大飛躍できるよう、日本取締役協会と協働しながらその環境整備にも力を尽くしているところである。(2023年4月25日:我が国スタートアップ企業が世界で大飛躍する環境作りへの提言書を公表https://www.jacd.jp/news/opinion/230425_post-281.html

経営・経済の歴史へのインパクト
学生自らがエコシステムを自律的に進化させ、実際の起業・資金調達も進行中

本講座は2021年秋の大学院生向け講義から始動したが、バリューや講義の基本設計は一貫しているものの、Day1から新たな文化とはいかないのも世の常であり、当初は手探り状態の部分もなかったとは言い切れない。ただ、初回卒業生の複数が、2022年春の学部生向け講義で精力的にチューターを務めてくれたことを契機に、卒業生の力によって講座がどんどん磨かれていくという強力なループが回り始めている。加えて、修了生自らが持続的に運営する、ユニコーン輩出を目指すコミュニティ「DICE」が設立されるなど、熱い機会をとにかく提供すれば学生の力で文化が創られていくことへの確信は当初からあったものの、その自律性は想像以上の状況にある。複数の卒業生がものづくり系の起業や資金調達を既に行うとともに、海外とのネットワークも自ら開拓に出向くなど、ディープテック系ユニコーンが輩出され続けるための前進は確実に起きている。IGPIグループのネットワークを今後もフル活用しながら、本講座だけに限らず、大学、学生とともに研究・教育の現場に新たな付加価値を創出し続けるための共闘を加速していきたい。

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