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バス会社経営プロジェクト
~公共交通事業を通じて地域の発展に貢献~

吉田 元
関東自動車
取締役専務執行役員、
みちのりホールディングス マネージングディレクター
慶應義塾大学経済学部卒、慶應義塾大学大学院MBA
薮田 伸一
ディレクター
一橋大学経済学部卒
公認会計士

公共交通の維持・発展という使命。

昭和40年代、高度経済成長に支えられ年間100億人を超えていた全国の路線バスの輸送人員数は、自家用車の普及に伴い現在では40億人程度にまで減少した。売上高が40年以上右肩下がりの業界であるため、特に地方のバス会社の経営は低迷し、公共交通ネットワークの縮減が更なる利用者の減少を招くという悪循環に陥ってきた。いったい、この流れを誰が食い止めるのか。目先の利益だけを求めた短期的なサポートで効果が出るほど単純な問題ではない。社会の課題と真っ向から向き合い、やるべきことは必ずやり切る。そんな強い信念と長期的視野がなくてはやり遂げられないミッションだ。IGPIは福島交通の再生支援に携わったことをきっかけに、傘下の公共交通事業会社の持株機能と経営支援機能を持つ、みちのりホールディングス(以下、みちのりHD)を100%出資により設立。「公共交通の長期的・持続的な価値の向上」というビジョンのもと、みちのりHDはこれまでバスやモノレールなどの公共交通事業会社6社(以下、みちのりHDも含め、みちのりグループ)に対して原則100%出資し、傘下企業の発展に取り組んでいる。自らの資本を投入することで事業の当事者になるスタンスは、いわゆるコンサルティング・ファームによる経営支援とは一線を画す。また、事業会社へは資本のみならず、経営者として人材を送りこみ、内部から企業の価値向上を実現することも、IGPIならではの強みと言えるだろう。


経営者として、内部から意識改革。

2012年4月、栃木県最大手のバス会社である関東自動車がみちのりグループに参画。吉田は取締役専務執行役員に就任した。

「私が就任した時、関東自動車は産業再生機構、その後の投資ファンドによる支援を経て、経営的には自立を果たしていました。その段階でみちのりグループに入ったわけですから、目指すべきは長期持続的な成長。公共交通ネットワークの拡充や利便性の向上によって、地域にもっと必要とされる会社になれるよう、経営者という立場から各種改革に取り組んでいきました。」

成長戦略へと舵を切りはじめた時、吉田の前には思わぬ壁が立ちはだかった。

「バス会社というのは伝統的な産業で、地元では有名企業。良き伝統を継承している一方、会社の中にある硬直的な常識にとらわれがちで、新しいことにチャレンジする機会を逃していたのです。」

「とにかく新しいことをやろう」。社員に働きかけると同時に、吉田は自ら企画し、企画書の書き方や関係機関との交渉など、実践して示すことで周囲の意識を変えていった。今では若い社員から自然と企画が提案され、良いアイデアはどんどん実施されることで社員の自信が芽生えていくといった好循環ができている。こういった地道な働きかけによる社内の意識改革も、自らが経営者となって企業に入りこむことで達成できたと言えるだろう。

「バス会社という労働集約的な事業の経営に携わる中では、特に人にまつわる課題に日々直面します。私がいる現場の最前線では、コンサルティング会社でよく使う“ファクト”や“ロジック”といった言葉を振りかざしても、誰も動きません。経営者としては、そうした“合理”の部分は当然のこととして、“情理”や“胆力”といった部分が大切です。総体として、この人の言うことを聞いた方が良い、聞かなければならないと思ってもらえなければ、組織は動かせません。」


その企業、その土地で生きる当事者になる。

社員の意識改革が進んだ関東自動車は、利用客を増やすため数々の企画を実現していった。さらなるサービス向上を目指し、設備投資にも積極的に動き始めている。

「例えば、平日のバスの運行回数は100便以上増加し、ノンステップバスや待合所の屋根も整備されました。こういった、すぐに売上という成果になって現れるか分からない投資は、長期的な成長のビジョンがなくては難しい。みちのりHDを通じたIGPIによる100%出資という経営的なバッググラウンドがあるからこそ、関東自動車も腰を据えて成長へ向けたステップを思い切って踏むことができるのです。」

吉田はさらに、運転士やガイドの人事評価制度を導入するなど、個人の成長を促すための制度改革にも踏み込んでいった。社内の人間だからこそ実現できる、社員の意識改革、制度変更、思い切った設備投資というトータルな改革によって、サービス品質も向上。利用者も順調に増えている。

「結果的に、これまでの4年間で社員の待遇も改善することができました。社員の仕事に対する姿勢が変わり、利用者の評価が変わり、その成果が自分の待遇になって現れる。一人ひとりがそのサイクルを実感することで、さらなる好循環へとつながってきています。」

今では、目に見えて変わっていく社員が「誇らしい」と言う吉田は、就任時より家族と共に住民票も本社のある宇都宮へと移している。

「地方企業の再生・成長案件においては、自分の退路を用意して取り組むなんていう姿勢ではやり抜くことは難しいですし、現地の社員もこちらの覚悟を見ていますから。」

みちのりグループによる新たな企業買収プロジェクトにも参画する吉田ではあるが、それも「関東自動車の経営に資するからこそやる」。圧倒的な当事者意識と覚悟によって、吉田は企業と地域の変革に挑んでいる。


グループ会社同士の相乗効果。

ひとつの地域に根をはり、経営者として参画することで、内部から企業の価値を長期的に上げていく。吉田が発揮している強みを縦軸とするなら、薮田が発揮しているのは、横軸の強み。IGPIメンバーとしてグループ各社の経営計画策定や計数管理の面から、各社の支援を行っている。

「バス会社は、どの会社も比較的事業構造が似ているので、他社の成功事例ややり方をどれだけ取り入れられるかも重要なポイントです。例えば、専属の横串担当者が中心となり、各社の整備基準・手法を比較して、最も効率的なやり方を他の会社に展開していくなど、ベストプラクティスの横展開をグループとして行っています。」

吉田によると、このベストプラクティス展開効果によって、関東自動車はかなりの幅の事故率の減少と車両整備コストの節減を実現している。

さらに、グループ会社同士の相乗効果は、社内で活かされるノウハウだけにとどまらないと吉田は言う。

「公共交通というのは、地続きのサービスです。例えば、関東自動車は隣県の茨城交通と一緒に『宇都宮⇔水戸線』という高速バス路線を共同運行していますが、茨城交通は同じみちのりグループであるため、ダイヤの変更なども迅速に意思決定することができます。」

このような広域連携の効果は、公共交通の充実という形で地域の利用者に還元されるし、みちのりHDが新たに買収する事業の事業計画の策定にも活用される。


見ているのは、よりよい地域の公共交通。

企業の経営改善のため、外部の人間として支援を行うだけでなく、自己資本によって投資し、事業のリスクまでを請け負う。そして、永続的な価値向上に向けて経営人材を送りこむ。さらにはグループ会社同士の連携によってノウハウ、人材、設備などを共有する。日本全国で地方の公共交通の衰退が叫ばれる中、IGPIが投資した企業は着実に成長してきた。そして、それら一つひとつの企業が強くなればなるほど公共交通ネットワークが拡充され、地域の足となり、生活の利便性向上や地域経済の活性化にも寄与することができる。短期的な利益だけを求めていては、決して実現することのできない「公共交通の長期的・持続的な価値の向上」という社会的なビジョンが、形となって現れてきている。

「関東自動車はもちろん、みちのりグループ、そしてIGPIは、今後も様々なチャレンジに挑んでいく」

と吉田と薮田は言う。この夏、みちのりグループは、「みちのりトラベルジャパン」を設立し、インバウンド旅行事業に本格参入。「爆買い」をしない本物の観光客を東北・北関東に送り込み始めている。グループとしてサービスを拡充していく道のりの先には、観光需要をも巻き込んで交通ネットワークの充実を果たした地域の未来が見えている。

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