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#16 宮田 裕章×村岡 隆史対談

多様な地域を繋げて人材を育て、新しい未来を共創する

教育を通じて、 地域から世界に繋がる新しい未来の共創をめざし、飛騨高山大学(仮称)の開設準備を進めている宮田裕章教授。 地域や共創を軸に、いかに持続可能で包摂的な社会をデザインしていくか、IGPI代表の村岡隆史と対談しました。

宮田 裕章
慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室 教授

2003年東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻修士課程修了。同分野保健学博士(論文)。早稲田大学人間科学学術院助手、東京大学大学院医学系研究科医療品質評価学講座助教を経て、2009年4月同准教授、2014年4月同教授(2015 年 5 月より非常勤) 、2015年5月より慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授。専門はデータサイエンス、科学方法論、Value Co-Creation。2025日本万国博覧会テーマ事業プロデューサーをはじめ多様な社会活動に携わる。飛騨高山大学(仮称)学長候補。

地域の価値を発掘し、グローバルに発信する

村岡 私たちがIGPIを設立した15年前、「共創」というキーワードはまだ世の中でそれほど使われていませんでした。ですが、経済的、社会的な価値をつくるためには、さまざまな共創なしにはありえません。また、社内で閉じていれば大きな価値は生み出せないので、外部の方にも開かれた基盤にしたいという思いを社名に込めました。

宮田 私自身も地方で新しい大学をつくっているので、そうした志に共鳴します。これまで、効率性を重視して都市に集まるのがおかしい、地域の力は大事だと言われながら、なかなか実現できませんでした。その背景には、医療や子どもの教育に対する不安があり、数年で帰ってしまう、あるいは、ローテーションで居着かないからです。そこに人材育成の場があれば、状況は変わります。

 地域の価値を引き出す際に、経済合理性のみでは、うまくいきません。特にテック・ジャイアントは滞在時間最大化モデルですから、いかに効率よくお金を使ってもらうかという考え方から脱することができない。一方、アカデミアはニュートラルな視線で、時には推奨販売しないなど、個人の持続可能な豊かさに貢献する取り組みができます。

 消費財で社会を回してきた産業革命の一大トレンドは、2000年くらいから変わり始めました。有限の資源を奪い合うのではなく、データという共有できる資源を使って、価値を創造することができます。その際に、人と人、人と世界を繋ぎ、共に創りながら次に進む「共創」の考え方が大切になりますが、IGPIさんは時代に先駆けてそれに取り組まれてきたのですね。

村岡 ありがとうございます。実は、宮田先生が始められる飛騨高山の大学は、経済学部ではなく「共創学部」を設ける予定だと知って、「これはやられた!」と思いました。というのも、私たちは南紀白浜で空港を経営しています。その目的は、空港を地方創生の拠点と位置づけて、地方のコミュニティとの共鳴が起こる形で価値づくりをすることにあって、ワーケーションなどを追い風に一定の成果は出せています。ただ、家族連れでの移住となると、教育や医療システムがまだ十分とはいえない。そこを何とかすれば、地方創生のパフォーマンスがもう1段高められると考えていた中で、先生に先を越されたな、と。

宮田 その点ではお互いに協力できるといいと心から思います。慶應義塾大学は羽田空港近くに殿町タウンキャンパスがありますが、テレワーク時代になると、データはどこでも扱えるので、人々にわざわざ移動してその場所に来てもらうことがますます難しくなります。その中で、殿町がそのアクセスをウリにしている羽田界隈をどう盛り上げたらいいのか。

 たとえば、羽田空港には、国内空港のハブとして道の駅的な強さがあります。時には食などフィジカルな要素を組み合わせつつ、メタバースでいろいろな地域を体験できるようにして、日本全国を楽しんでもらう。そこでフィーリングが合えば、すぐに飛行機で移動し,現地でさらに豊かな体験ができる。そのように地域をネットワークで繋げて、日本を体験する場をつくる取り組みをIGPIさんとご一緒できれば、面白いですよね。

村岡 日本的な価値は私たちのルーツですから、IGPIでも重視しています。南紀白浜を選んだ最大の理由も、千年以上の歴史を持つ熊野古道があるからです。その場所に足を運ばないと感じられないリアルの体験には、世界に通用する普遍的な価値があります。そういう強みはどの地域にもありますが、一歩引いて相対化して捉えないと、地方の人だけでは価値がわからない。そこで、私たち外部の人間が一緒に入り、価値を発掘し、もう一段レイヤーを上げて普遍的な価値にしてグローバルに持っていきたいと考えています。

宮田 普遍的な価値づくりでは、絶対的な価値をぶつけ合うだけでは、世界を動かせませんよね。たとえば、元国連難民高等弁務官の緒方貞子さんは、自分たちが命を救った難民がその足で虐殺を行うというように、多くの挫折を味わいました。それを繰り返しながら、それでも大切なのは人の命だという共通項としてhuman security見出します。そこから積み上げてベーシック・ミニマムのセットとしてつくられたのが、国連のSDGs(持続可能な開発目標)です。今後は、ミニマムを超えてSDGs の先を考えるならば、新しい価値を生み出し続ける仕組みや、共創を通じてコミュニティの未来をつくることがすごく大事になりますね。

村岡 隆史
株式会社経営共創基盤 代表取締役CEO

三和銀行にて、プロジェクトファイナンス業務、M&A業務に従事。モルガンスタンレー証券を経て、産業再生機構に参画。三井鉱山、ミサワホーム、ミヤノ、ダイエー等の案件を統括。IGPI設立後は、数多くの企業の構造改革や事業再生に関わる他、中国・アジア諸国でのM&A・投資、成長戦略立案プロジェクトを多数統括。 INCJ社外取締役、新日本工機社外取締役、池貝社外取締役、元金融庁参与
東京大学農学部卒、UCLA 経営学修士(MBA)

多様な資源を持つ地域を繋げて、新しい流れをつくる

村岡 IGPIでは北関東から東北地方でバス会社も経営しています。東京の人間は東北を一括りにしがちですが、細かく見ていくと、それぞれ固有の歴史、文化、考え方があります。そういう価値を発掘し、飛び地と飛び地を繋げて、共創共鳴させたいと思っています。

 そのときに一地域だけで閉じていると、資源的にも地政学的にも発展しません。瀬戸内、南紀白浜、さらに東京や大阪も1つの地域ですから、さまざまな資源を持つ地域同士を繋いでいけば、新しい流れがつくれるはずです。

 飛騨高山につくる新しい大学では、1年目は座学ですが、2年目以降は自分の行きたい地域に行って、企業とともに実践的な取り組みをしてもらう予定です。現在、福岡や瀬戸内と連携の話を進めていますが、東北でも何かできればいいですね。

村岡 東北と、さらに加えていただきたいのが北欧です。IGPIは3年前に北欧バルト三国で「NordicNinja」というベンチャーキャピタル(VC)を開設し、同地域でプレゼンスを築いてきました。北欧の人たちは「Think global, Act local」で、それぞれローカルでエッジを立てながら繋がることで、「北欧バルト3国」というブランドで発信し、世界のイノベーション・ハブになりつつあります。特に「サステナビリティ×デジタル」というテーマに注目していますが、最先端のソリューションが社会実装できる場として、日本が学べることは多いと思っています。

宮田 私も北欧には可能性を感じます。スウェーデンとイギリスの合弁会社のアストラゼネカと連携の話をしていたときに、自社の売上よりも、現地の持続可能な経済にどう貢献できたかをKPI(重要業績評価指標)に設定していて、本気で共創を体現しようとしていることに感銘を受けました。新しい大学ではグローバル連携も視野に入れているので、北欧とも連携できるといいですね。

 開学は2024年ですが、飛騨古川駅前の開発プロジェクトは既に動き出しました。地域住民のデータをとって、地域が大切にしているものと、訪れる人が大切にしているものを響き合わせて、大学だけでなく駅前の商業施設などと一緒に、地域のビジネス、デザイン、文化を高めたいと思っています。

効率性だけでなく、気持ちに配慮して取り組む

村岡 地域の人が大切にするものや気持ちへの配慮は、繋がりをつくるときに重要です。地方の企業再生で難しいのは、ビジネスをつくり直すことよりも、人との繋がりをつくり直すことです。たとえば、効率性を追求するためには、昔のしがらみで行ってきた取引を切る必要があるけれど、その相手は親戚や友達だったりします。ドライにやれば、価値を損ねてしまうので、それぞれの気持ちを理解したうえで、切るべきものを整理しなくてはなりません。

 ただ、新たに作り直すときに、テクノロジーを活用して世界と繋がったりすれば、地域の方々も新たな気持ちの高まりを経験できます。そういうことが、これから私たちに求められていると感じています。

宮田 これまでと違った新しい可能性に繋がる未来がないと、前向きに進めませんよね。従来と間違いなく違うのは、デジタルによって直接世界と繋がれること。東京の価値観に合わせて、同じモノを大量生産するのが少し前の流れでしたが、これからは、グローバルで繋ぐことで、ローカルのニッチなものが経済的にボリュームを持つ可能性があります。そういう考えで、自然が好きな人のコミュニティ、文化が好きな人のコミュニティなど、多層レイヤーで繋がって、新しい地域の未来や可能性を開くことが重要なファクターになると思います。

村岡 ところで、IPGIが地方の投資プロジェクトを始めたときに、私が心配したのは、お金のことよりも、地方に社長や幹部で行って、その地域に経営者としてコミットしてくれる人がいるのか、ということでした。実際には、まったくの杞憂でした。30代後半から40代前半で、社長や幹部として家族連れで地方に行った人間は、東京に戻りたがりません。逆に、私のほうがいつまで東京でつまらない仕事をしているのかと言われてしまう。

宮田 都市生活よりも地方がいいというのは、最高ですね。

村岡 そうですね。ただ、そのためには、家族を連れて、東京のことは気にせずに行けるようなセッティングが重要です。それがうまくできれば、彼らは地域に本気で向き合えるので、地域の人たちとの関係性が密になり、それが仕事の成果に繋がります。転勤させるモデルではうまく機能しません。

宮田 それはとても勉強になります。我々も、学生たちが飛騨に定住するのではなく、2年目以降に別の場所に行くことを前提に、その場所で持続的にコミットすることをビジョンとしたいと思っていましたので。

村岡 地方で活躍するのもいいことですが、それとは別に、若い人は一度世界を見てみることも大切だと思います。私も若い頃にウォールストリートを経験し、その先に世界をぐるっと廻って日本があった。東京に住んで初めて地方の良さがわかったり、海外で初めて日本の良さがわかったりしますから。そういう体験もライフステージの中でうまく設計できるといいですね。

宮田 私も幼少期は東南アジアで過ごし、国内でも地方の暮らしを経験しました。どの場所にもそれぞれ良さがあり、これからの社会において可能性を感じます。かつては地方から東京に出て根付けるかどうかという単一のゲームでしたが、本来はそれだけではありませんよね。

自己アップデートを継続させる鍵は「学ぶ力」にある

村岡 私たちはIGPIの人間に求められるのは「知的総合格闘技」だと考えています。というのも、これからの世の中をどう変えるかを考える場合、会計制度や法律、財務などの現状をどう変えるかを全部セットで議論していかないと、単なる机上の空論に終わってしまいます。だから、コンサルティングではなく、会計、財務、法律、さらに現場に入って人を動かすことも含めて、全部できるスーパー・プロフェッショナルを目指そうとしてきました。どこかで強みを持ちつつ、それぞれの技をアップデートし続けるためには、学ぶ力が大切です。テクノロジーや情報にアクセスしやすくなっているので、学習するためのバーは間違いなく下がっています。先生のつくられるような学びの場をもっとオープンに利用できれば素晴らしいですね。

宮田 それこそが、私たちが共創学部を創ろうと思った理由です。学問の世界も、ファイナンス、法律、工学、アート、医学と、完全に別々で、それぞれの専門家であることが尊ばれる。深掘りしたときの論文数がKPIなので、領域をまたぐ人には不利となります。そこを変えないと、真の価値になりません。だから、領域横断的にバランスよく学びながら、個性に合わせてどこかを軸に強みが持てる、そういう人材育成をしていきたいと思っています。

村岡 それはぜひお願いしたいです。それから、若い人だけでなく、白髪頭の人間もそこに加えていただきたい。地方では特に、中高年の活用が重要で、世代を超えた共創の場が求められていますから。

宮田 世代を超えた学びや、大学の数年間だけでなく、社会、いろいろな企業、行政を含めた人と繋がりながら、生涯学び続けるところにも取り組みたいと思っています。ただ学ぶだけでなく、実践の中で貢献することで真の学びになります。実践を通して力を磨きつつ、ライフスタイルの中に学びを溶け込ませる。そうしたプロジェクトをぜひご一緒させていただきたいと思います。


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