IGPI’s Talk

HOME/ IGPI’s Talk/ #6 西山 圭太×村岡隆史対談
#6 西山 圭太×村岡 隆史対談

連関する社会で、真のDXを実現する思考法とは?

この度IGPIのシニア・エグゼクティブ・フェローに就任した東京大学未来ビジョン研究センター客員教授の西山圭太氏は、経済産業省商務情報政策局長として国内のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進したり、産業革新機構の専務執行役員・東京電力ホールディングスの取締役として官と民双方からの企業変革を支援してきました。多くの日本企業にとって急務であるDXに臨む際の心構えや必要な姿勢について、IGPI代表の村岡と対談しました。

西山 圭太
株式会社経営共創基盤 シニア・エグゼクティブ・フェロー
東京大学未来ビジョン研究センター客員教授

通商産業省(現経済産業省)入省後、産業革新機構専務執行役員、内閣官房東京電力経営・財務調査タスクフォース事務局長、経済産業省大臣官房審議官(経済産業政策局担当)、東京電力ホールディングス株式会社取締役・執行役、経済産業省商務情報政策局長を経て2020年7月退任。東京大学法学部卒、オックスフォード大学(哲学・政治学・経済学)卒

自由で創造的な発想で、マクロとミクロを行き来する

村岡 西山さんは、長年にわたり経済産業省で過ごされながらも、産業革新機構の執行役員や東京電力ホールディングスの取締役など、官と民の双方から企業変革に果敢に挑戦されてきたかと思います。その原動力はどこにあるのでしょうか。

西山 1985年に通商産業省に入省して以来、35年間在職していました。手前味噌ですが、その間いくつか異なる分野で自由で創造的な仕事をさせてもらいました。その最初の経験が「電力の自由化」です。20代終盤から30代にかけてのこの経験は「世の中にとって良いと信じることを発案すれば、かなり大掛かりで難しいことでも実現できる」という私の原体験になっている気がします。

 その後、不良債権問題に取り組みました。産業再生機構との出会いはその頃です。産業再生機構に関わる前の私は、いわゆる構造改革派の人間だったので、通産省が個別企業に介入すべきでないと考えていました。むしろ、会社法の改正などマクロの制度を変えることによって変革していくべきだと考えていたんです。ですが、不良債権問題に取り組む中で、それだけではこと足りないと実感しました。制度設計や改革ももちろん必要ですが、民間の企業行動の変革を促す先例を創出するアプローチも同様に必要だと。

 つまり、日本が抱える問題は、政府の規制が厳し過ぎるといういわゆる岩盤規制のような課題にのみあるのではなく、企業行動にもあるということです。それを変える必要があるし、企業行動のパターン変革は単純な個々の企業の競争の勝ち負けではない面を含んでいるので、政策立案にはその認識も必要だということです。単純な「政府か市場か」という二分法では解けないのです。

 実は私は経産省を退官する何年も前から、退官する日に挨拶するセリフを決めていました。変かもしれませんが、それは「あー、おもしろかった!」と言うことです。昨年実際その通りに挨拶をしました。「おもしろい」というのは、「自由で創造的だった」という意味ですが、さらに言葉を足せば、役人人生を通じて、制度やガバナンス構造というマクロと個別の企業行動というミクロを行き来し、それぞれに横たわる問題を両にらみで考えて解決し、世の中に役立つことにチャレンジできた、ということです。

抽象化の思想が、真のDXを実現する

村岡 その思いは、『DXの思考法』で綴られていることに通じているように思います。 本書は、DXの本でありながらも、DXの本ではないというか、思考法の本ですよね。

西山 現在、世の中が変わろうとしていることの大きな要因として、デジタルがあることは明白です。経営者がDXを経営問題、自分事として扱うべきなのは当然ですが、だからといってただやみくもにデジタルやITに関する知識を経営者が詰め込めばDXに成功するかといったら、そうではないでしょう。では、経営者は何を理解すればデジタルと向き合うことになり、その本質を理解し、実践できるのか。これを私なりに伝えるために『DXの思考法』を書きました。

 企業が本当の意味でデジタル化を成功させるために必要な思考とは、「単純な仕掛けをつくれば、目の前にないものも含めて何でもできてしまうかもしれない」という一般化・抽象化の思想です。その思想がデジタル化の根底には常にあります。『DXの思考法』ではアリババやネットフリックス、エルブジ、さまざまな事例を記していますが、この前提を用いると、なぜこれらの企業が成功できたのかが理解できます。

 「抽象化の思想」というのはつまり、「およそ全ては、ひとつのやり方でできるのではないかと一旦仮定してみる」ということです。これまでの日本企業は、個々の企業それぞれに得意領域があり、それを極めることを優先し、他社と似ている部分、共通化できる部分は後から探す、という順で捉えていたと思います。そうではなくて、そもそも業種を問わず企業がやっていることは実は全て酷似しているのだけれど、よく見ると異なる部分があるという発想から考えるのが、デジタル化では正しい思考法です。そうすれば改革のスピードも上がるし、実は自社の真の個性も見つかります。それをやらずに全部を自社独自の個別具体的な問題だと考えると、目の前に起きる問題に追い回されて残業が増えるばかりで解決もできません。これは役所の仕事でも同じですが。

村岡 西山さんは、本書の中でそれを「上がってから、はじめて下がる。まずは抽象化、その後に具現化」と表現されていますね。スペインにあったミシュラン三つ星のレストランエルブジの事例を興味深く拝読しました。エルブジはレストランの店舗とは別に拠点を構え、イノベーションセンターのようにそこに世界中からさまざまな食材を集めて調理のテクニックをテストしていたそうですね。

 いきなり具体的な料理そのものやメニューを考えるのではなく、食材×世界中の調理テクニックという不変のレイヤーと、具体的な料理・メニューという変動するレイヤーに分けるなど、ビジネスを大きく二つのレイヤーに分けて捉えていたと。そして前者をデータベースのように考え、個々の料理・メニューづくりに活用していた。

 私はこれを拝読し、どの企業でも今すぐに使えるアイデアだと思いました。たとえば、銀行。銀行は世界で最も財務に関するデータを保持していますが、そのデータを活用しきれていないような気がします。エルブジの例でいうと、そのデータを素材やDNAベースまで上がって整理し直すことをせず、企業や産業ごとに決まった活用の仕方しかしていないように見受けます。また、世界中の優れた調理法を持ってくるということもできていません。それを試みてみるだけで、大きく変わるでしょう。

 同様のことをIGPIに当てはめて考えると、企業再生の分野では不変的な部分と変動的な部分をレイヤー化して整理し、個々の企業に活用するプラクティスが確立しています。外部の専門家との連携もレイヤー毎に行います。企業再生という産業自体がDX思考法的に整理できたことは、産業再生機構の一つの財産と言えるかもしれません。この思想を他の分野、例えばベンチャー企業支援などにも活用できないかと考えています。

 企業再生や大企業・ベンチャー・地方企業支援では、それぞれに必要な支援法が異なりますが、共通する部分もある。一度抽象化し、それを個別のケースに当てはめるということをグループ全体で意識的に行うことが必要だと感じています。

村岡 隆史
株式会社経営共創基盤 代表取締役CEO

三和銀行にて、プロジェクトファイナンス業務、M&A業務に従事。モルガンスタンレー証券を経て、産業再生機構に参画。三井鉱山、ミサワホーム、ミヤノ、ダイエー等の案件を統括。IGPI設立後は、数多くの企業の構造改革や事業再生に関わる他、中国・アジア諸国でのM&A・投資、成長戦略立案プロジェクトを多数統括。 INCJ社外取締役、新日本工機社外取締役、池貝社外取締役、元金融庁参与 東京大学農学部卒、UCLA 経営学修士(MBA)

グローバルで勝負するために必要な意識と発信力

西山 先ほど、DXを実践する際に必要な考え方として、「およそ全てを一旦、一つの方法でできるのではないかと仮定してみる」とお話ししました。角度を変えてお話しすると、いま世界中で社会のあり方、産業のあり方が大きく変わろうとしています。企業のDXあるいはCXといわれますが、ビジネスは社会や産業の変化の一部として変わろうとしているという認識も大事です。つまりIXと自分という認識ですね。自分の会社、企業が変わる、という視野だけでは常に不足してしまう。

 たとえば、GAFAMが挑戦してきたのは、それぞれの企業を変えようとすることではなく、「社会を変えよう」ということですよね。社会を変えようとしたら、その結果としてそれぞれの会社が成功したわけです。今、グローバルに競争しようとすると、そういった発想でやらなければ成功し得ません。

村岡 そうですね。「社会を変えよう」という意識が希薄である結果として日本だけが従来のプラクティスが変わらないという事例も多いですね。

 たとえばM&Aにおいて、米国を中心とするグローバルでは契約書の大部分が標準化されてきて、投資銀行や証券会社、弁護士が担う役割、提供する付加価値の内容が大きく変わってきています。大部分が標準化された契約書をもとに、最重要事項だけを双方の会社のCXO同士が議論し、交渉する。一方で、国内取引ではまだそのようなことは起きていません。

 データルームこそバーチャルなものに変わったかもしれませんが、デューデリジェンスではゼロから基礎情報を精査する。レイヤー毎に整理して対応することは出来ない。これでは、ソリューションはもちろんのこと、組織のあり方としてもグローバルに追いつけないでしょう。意識を根本から変えていくために、どのような姿勢が必要でしょうか。

西山 率直に申し上げると、日本ではせせこましいことを考えがちだと思います。他方において、グローバルな流れに追いつきたいと思っている。そこには組織内の摩擦もあるし、スピードも足りていない。そんな中で、「追いつこう」という意識だけではグローバルでの存在感はゼロに等しい。背伸びしてでも、あるいはやせ我慢してでも、グローバルな動きを自分たちなりに解釈して、さらにその先をいく考えをざっくりとでもまず作って伝えてみるべきです。たとえば、グローバルカンパニーから「日本のデジタル化はどうなっているんですか」と問われたときに、「遅れていて恥ずかしいんですが、こんな風に工夫して私なりに頑張っています。」というのではなくて、「そもそもあなた方の在り方にもこういう問題があり、それをこう解決したら良いのではないかと私たちは思っています。」といったことを伝えるべきです。

 そういった姿勢で対話していると、はじめは聞く耳を持っていなかった相手も、徐々に身を乗り出してきます。もちろん、ハッタリだけではいけないので中身も伴う必要がありますが、グローバルで勝負するにはそのような姿勢が必要です。もちろん日本社会の中でそればかりやっていると、友人も減るかもしれませんが(笑)、そうした役割がIGPIの中にあってもいいような気がします。

「斜め」の言葉を持ちながら、連関する社会へ働きかける自分を描く

村岡 書籍の中にあった「本屋にない本を探す」という考え方もグローバルと国内両方をふまえて、自身のアイデンティティーを増強させることを意味していたと思うのですが、西山さんのそうした考え方はどのように形づくられたのでしょうか?

西山 これは書籍には記していないのですが、私は物事を考えるときに、「グローバル・日本」、「構造的・循環的」の2軸をあわせて4象限にして捉えています。たとえば、日本の景気は循環しますね。またもう少し広く言うと、柄谷行人さんが一時期言っていた「明治・昭和平行説」というのがあるのですが、これは近代日本を60年サイクルで捉えて、国家目標の設定→邁進→達成→弛緩→敗北→再生というサイクルで考えるもので、ある時期までは大変説明能力が高いと思っていました。これは「日本・循環」の象限に入るものです。

 「日本・構造」という象限に入るのは、人口減少とか少子高齢化ですね。グローバルにも広がりつつありますが、世界に先駆けて日本で顕著に現れた構造変化です。今の時代に生きている人たちはあまり意識していませんが、おそらく人口が減少に転じた2008年というのは、ある意味で大化の改新や明治維新を超えるインパクトを日本社会に持った分水嶺の年として将来記憶されるのではないでしょうか。そしてここから派生するのが、冨山さんと議論してきた「GとL」という発想ですよね。同様にグローバルにも循環的変化(景気循環とか覇権の交代とか)と、構造的変化(AIの発達とか)がありますよね。目の前に起きるそれぞれの事象をこのように捉えて「どこに属するのか」考えてみると、見方や導き出すソリューションが変わってくると思います。

 こうした見方を若い頃から身につけていると、労働時間も減らせると思うんです。つまり、無駄な残業をしないで済むようになる。DXの思考法とはつまり、「一旦抽象化して個別に落とす」ということですから、個々の事象を一々具体的に捉えて考えるよりも大幅に成果を出すまでの時間が短縮できます。要は、上手にサボれるようになる(笑)。

 でもこれは冗談でもなんでもないんです。ほとんどのことを標準化した上で、標準化しない部分に創造的に注力すると、そこで発揮される価値も必然的に大きくなります。多くの人は、標準化してしまうと自分や自社の付加価値が無くなると思いがちですが、逆に全てのことを独自にやっていたら何もできませんよ。残業が増えるだけです。

村岡 それはすごく共感です。個別のプロジェクトにも勝負どころがありますよね。それ以外は、どれだけ手を抜けるかだと思っています。たとえば、用意する資料にしても、100ページのうちに本当に重要なのは1〜2ページなはずです。それが果たして全体の中のどこなのかを外さなければ、残りの99ページはそもそもつくらなくても済むはずです。もちろん、お客様が望めば99ページもつくりますが、なるべくそこは標準化してつくっておいて、あとの1ページで勝負する。

  その1ページをつくるには、データも集めてこなければならないでしょうし、おそらく1万ページ分思考しなければならない。でも、IGPIはそこで勝負し続けられるようなファームでなければならないと思っています。

西山 それを実現させるためには、同じ会社の中でも毛色の異なるプロジェクトを行なっている人がいることや、社会とのつながりで仕事をすることが大事だと思っています。というのも、結局、相手を説得させられる言葉は、相手にとって少し斜めからきた言葉だと思うんです。相手がいつも考えていることと同じようなことを同じような言葉で伝えると、聞き心地はいいかもしれませんが、説得はできませんし、相手にとってのトランスフォーメーションにはなりません。

 斜めの言葉を伝えられるようになるためには、海外のファンドの例や最先端の研究の動向やローカル企業の例など、角度が異なる語彙をたくさん持っていて、それをもとのコンテクストから外して別のコンテクストに置き換えて生かすようにする必要があります。それが「斜めからくる言葉」です。だからデジタルをエルブジでたとえてみたわけです。つぎはぎの知識を溜め込む雑学王になろうということでは決してないのですが、気づきを得るためにさまざまなことを知ろうとしているうちに、別の分野との類似点、共通点なども見えてきて、世界がつながっているように見えるようになる。それが大事です。すると、いろいろなことに幅広く関心が持てるようにもなって、人生も楽しいですよ。

村岡 説明する相手に合わせてアナロジーを使い分けられるような引き出しをどれだけ持てるかですよね。最後に、デジタル化の本質が、いくつかの層からなる重箱のようなレイヤー構造であり、それぞれは相互に連関し合うと考えると、それは仏教でいう縁起の観念と近くて日本人にとってはアドバンテージがあるのではないかと思うのですが、西山さんはどうお考えですか?

西山 おっしゃる通りだと思います。ですが、同時に我々は近代を経ていまを生きているので、同じ「縁起」という発想でも無常や諦観という観念とは少し違うものだとも思います。つまり、西洋的な「人間が対象に働きかける」という発想もあわせて必要なのだと思います。ですので、連関している物事や社会の中で、そこに影響を与えようとする自分をどう描けるか、という思想が必要なのかもしれませんね。IGPIではぜひそうした思考で社会や企業を先導していきたいです。


関連記事

RELATED ARTICLE