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KDDI 髙橋誠 ×IGPI 村岡隆史 対談

KDDI流「両利きの経営」
実践と地方創生モデルとは?

第5世代移動通信システム(5G)など最先端技術や通信基盤を持つKDDIは、「KDDI版ジョブ型人事制度」や10年以上前から取り組むベンチャーとの共創など、KDDI流「両利きの経営」を持続的に推進しています。デジタル時代の人材活用や地方創生について、KDDI代表取締役の髙橋誠さんとIGPI代表の村岡が対談しました。

髙橋誠
KDDI代表取締役

1961年滋賀県生まれ。1984年横浜国立大学工学部金属工学科卒、京セラ入社。 同年、第二電電入社。2003年KDDI執行役員、2007年取締役執行役員常務、 2010年代表取締役執行役員専務、2016年代表取締役執行役員副社長、 2018年4月代表取締役社長に就任。

人材が魅力を感じる場づくり

村岡 コロナ禍をはじめ、地政学的にも不透明性が高い時代には、事業戦略を議論するだけでなく、最終的にそれをやりきる組織能力、ひいては人材が重要です。御社は昨年「KDDI新働き方宣言」を発表されましたが、いわゆるL(ローカル)型産業の大手企業の中でも、抜本的に人材を捉え直す動きとして、個人的に注目していました。

髙橋 私たちは「KDDI版ジョブ型人事制度」と「KDDI新働き方宣言」、それを支える「社内DX(デジタル・トランスフォーメーション)」という3軸で整理しています。 日本では人口が減り、通信料金が下がっていく中で、通信以外の領域に事業を拡大していかなくては、持続的成長はできません。金融、コマース、エネルギーなどへと広げるためには、通信以外の専門性を持った社員が必要です。その仕掛けとして行き着いたのが、ジョブ型人事制度でした。 それに伴い、社内の人間の意識改革も不可欠になります。特に、終身雇用の人事制度では外部の人材からのニーズに応えきれませんし、データサイエンティストなどの高度人財の給料は高額です。従来の制度では対応しきれなかった部分を見直し、社内にも広げていくことにしました。昨年の夏から中途入社の方に新制度の適用を始めましたが、評判は上々です。

村岡 私は20年前から日本の構造改革を見てきました。お金やモノの流動性は相当高まり、M&Aも増えてきたのですが、最大の課題は人材や雇用の流動性が圧倒的に低いこと。御社のような制度が増えれば、社内と社外の労働市場が釣り合い、人の出入りが可能になりますね。そういう仕組みを先行してつくってこられたのは、非常に感慨深いです。

髙橋 まだ道半ばですし、ジョブ型人事制度には賛否両論があります。従業員を長期的に育てていく日本企業の良さを否定するとのご意見もいただきました。「KDDI版」と名付けたのも、職務定義や成果だけでなく、人間らしさやマネジメント力も両立させたかったからです。そうした点を評価するのは難しいので、1on1(ワン・オン・ワン)で部下を育成するグループリーダー向けの研修にも力を入れてきました。オンラインセミナーで1回につき1500人が参加するセッションを数回行い、私自身が直接話すようにしています。

村岡 社内ではアレルギー反応は出なかったのでしょうか。

髙橋 本格始動前ですので、これからだと思います。リーダー層は今春から全員一斉に新制度に移行し、全社員への適用は2022年4月を目指して現在労使で協議を進めています。ただ組合は前向きですし、なかでも上層部と若手は好反応を示しています。戸惑いがあるとすれば中間層ですが、さらに上を目指してもらうために理解浸透を図りたいと思っています。

村岡 IGPIの場合は、設立理念に、真のプロフェッショナル組織を目指すことが含まれています。自分のスキルと人間力で独立独歩やっていけるプロフェッショナルが集まる理由は、個人事業よりも組織に所属したほうが、自分の力をさらに発揮できるから。入ってくるのも自由、卒業していくのも自由。フルタイムでなくても構わない。そういう働き方ができる「場」を設計しようとしてきました。

髙橋 当社は2000年に合併後、大きな借金を抱えて、いつつぶれてもおかしくない時期がありました。終身雇用でローテーションの業務を行ってきた人は、会社から出た際に、何の専門家とも名乗れません。当時もそうでしたが、これからの時代は特に、それでは本人も非常に不安でしょう。新しい人事システムで社員が何かのプロフェッショナルになり、社外でも通用する人材になってほしいと思います。 ただ、それではみんな転職していくのではないかというご指摘もあります。プロフェッショナルとして自立できるけれども、この会社にいたい。この会社のために自分のスキルを使いたいと思うようにするのが、次の課題だと思っています。

村岡 KDDIさんは長い時間軸で物事に取り組む事業が多いので、我々の事業とは違うタイプだと思っていましたが、気が付くと、置かれている状況は似ていますね。その組織の所属したほうが自分の力が発揮できる。そういう魅力がなくなれば、人が離れていきます。だからこそ、そうならない「場」を作り続けるのが経営層の仕事だと、私自身も思っています。

村岡 隆史
株式会社経営共創基盤 代表取締役CEO

三和銀行にて、プロジェクトファイナンス業務、M&A業務に従事。モルガンスタンレー証券を経て、産業再生機構に参画。三井鉱山、ミサワホーム、ミヤノ、ダイエー等の案件を統括。IGPI設立後は、数多くの企業の構造改革や事業再生に関わる他、中国・アジア諸国でのM&A・投資、成長戦略立案プロジェクトを多数統括。 INCJ社外取締役、新日本工機社外取締役、池貝社外取締役、元金融庁参与 東京大学農学部卒、UCLA 経営学修士(MBA)

相互理解に基づく KDDI流「両利きの経営」

村岡 私たちはこれまで、「両利きの経営」で新規事業の探索と既存事業の深化を同時にやる必要があると主張してきました。KDDIでは、通信の一本足から脱却するために、エンタテインメントから始まり、金融など新事業をたくさんお持ちです。大企業は総じて両利きの経営が苦手なのですが、なぜ御社では可能だったのでしょうか。

髙橋 最初は『イノベーションのジレンマ』を読んで、イノベーションを起こそうと取り組みました。ですが、新規事業はスケーリングできないと意味がありません。小さいままでは、本業の人からは遊び事に見えて、自分たちには関係ないと切り捨ててしまう。ベンチャーを仕掛ける側は本業の人は理解がないとこぼしていました。 それに対して『両利きの経営』の本では、本業が漸進的に成長しないと、新規事業がスケーリングできないことが書かれていて、すごく腹落ちしました。特に、本業は先のないレガシー事業ではなく、漸進的に深化させて初めて新規事業をスケーリングできることに、お互いに気づき始めたのです。もちろんスケーリングは簡単なことではありませんが、成功事例を大切にしながら、両利きの経営に取り組んでいるところです。

村岡 探索と深化のどちら側でも、従業員のモチベーションが落ちれば、バランスが崩れて、両利きの経営は成り立たなくなりますよね。

髙橋 私のたっての願いで、2018年にKDDI DIGITAL GATEという開発拠点をつくりました。DXを支援するためにグループ傘下のベンチャー企業を集めて、企業の方にも来ていただき、一緒に話し合ってPoC(概念実証)ができる場所にしたいと思ったのです。 実際に、KDDI DIGITAL GATEに来られるお客様には2タイプいます。1つめは、目がキラキラさせながら、イノベーションを起こしたいと思っている方。ですが、両利き経営の右(探索)だけなのでPoC倒れになりがちです。2つめは、両利き経営の左(深化)で、既存事業でも何とか新しいDXを起こそうと思っている方。こちらは粘り強く取り組まれます。その様子を見ても、左側を漸進的に深化させたいと気づかない限り、DXや会社のカタチ自体を抜本的に変革させるCX(コーポレート・トランスフォーメーション)まで行き着かないことがよくわかります。

最初に便益を提供すれば、利益は後からついてくる

村岡 いろいろなメディアで、ベンチャー企業から見た大企業の評価が発表されていますが、KDDIは何年も連続でトップになり、評価が高いですね。たとえば、10年以上前から事業共創プラットフォーム「KDDI ∞ Labo(ムゲンラボ)」なども立ち上げていますが、そういう活動だけで評価が高まるほど単純な話ではありません。ベンチャー企業の良さを取り込み、持続的な形で互いの成長につなげるために、どのような考え方でベンチャーと付き合っているのでしょうか。

髙橋 成功するビジネスモデルを見ていると、先に相手のためになることをして、それが後から戻ってくる形が多いと思います。たとえば、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)は、まず大きな投資をして新技術であるクラウド基盤をつくり、それを安価に提供して、お客様が儲かったらレベニューとしてアマゾンに戻ってくる仕組みです。こうしたモデルは絶対に成功しますし、DXの根幹だと思います。 DXではすべてのものに通信が入り、一過性ではなく、持続成長が可能な取引をする。最初にお客様に利便性をお渡しして、それによって長く付き合ってもらうモデルをDXでつくる。KDDIでもそういうモデルを目指したいと思ってきました。 ベンチャー企業とのお付き合いでも同じ考えをしています。1990年代に多くの日本企業がシリコンバレーで失敗したのは、ベンチャーに投資をして一方的にメリットを得ようとしたから。それではベンチャーの利潤はすごく小さくなり、背を向けますよね。それを教わったので、まずはベンチャーに当社のアセットを全部使っていいから、大きくなってください。その後で返してね、という循環を大事にし始めました。それから、ベンチャーとの関係も変わってきました。 加えて、当社のフィロソフィーには利他の考え方がベースにあります。まず相手のために利潤になるものを先に追求して、後で利益をもたらしてもらうモデルにこだわってきたことも効果的だったかもしれません。

村岡 私の記憶では、御社の創業理念は「全従業員の物心両面での幸福を追求する」という言葉から始まっていましたよね。今のように不透明性が高い時代、従業員のモチベーションを高める必要がありますが、物心両面での幸福を追求することを最初に言い切れる。そういう経営理念はすごく重いものですね。

通信基盤とデジタルを活かした 地方創生モデル

村岡 今回、新設した投資会社のJPiXに、御社には資本業務提携という形で参画いただき、地方創生で協働することになりました。御社ではもともと地方創生はどのように位置づけていらっしゃいますか。また、IGPIにはどんな期待をされていますか。

髙橋 私は社長になったときに、目指す姿として、お客様に一番身近に感じてもらえること、ワクワクを提案し続けること、社会の持続的成長に貢献できることを挙げました。その中で、地方創生は社会貢献の1つの方向性だと捉えています。さらに、5Gのライセンス取得条件にも、全国に5Gのネットワークを張り巡らせて、地方と都市の格差を縮め、地方創生に貢献することが含まれていました。 IGPIさんとの話し合いで、地方創生では地方自治体の予算だけでは一過性に終わってしまう。地方のベンチャーも含めて、地方の人々で持続的に回るモデルをつくるのが大事だというお話を伺いました。そういう持続的な地方創生を本気でやっていけると考えて、JPiXに参加させていただきました。IGPIさんとは十数年の付き合いで、KDDI ∞ Laboの立ち上げで並走していただいたり、私自身もプロジェクトをご一緒した経験があります。安心感をベースに協働できる存在だと思っています。

村岡 ありがとうございます。地方創生では、PoC倒れのように途中で挫折するケースが非常に多いものです。それをどのように持続性のある形で支援できるか。そこで私たちが考えたのは、経営自体をお預かりして、DXにコミットできる経営の形をつくること。そこにDXの技量を持った人に来てもらうのです。 ところで、KDDI DIGITAL GATEでは、外部採用のデジタル・エンジニアと、社内のビジネス経験者がハイブリッドのチームをつくって、お互い成長しながら、お客様にDX商品を提供する仕組みが回り始めていると伺いました。そうしたやり方は地方創生のDXにも活用できそうだという感触を持ちました。

髙橋 そうですね。我々はターゲットを明確にしてから、人材を配置して、事業に取り組ませるのが、非常に近道だと考えています。地方創生については、エルダー人材を集めてみたのですが、みんな非常にやりがいを感じて、生き生きしています。さらに、ナレッジを持つ人員がKDDI DIGITAL GATEなどの施設に集まっていれば、現地に行かなくても、リモートで支援すれば十分に対応できると思います。

村岡 なるほど。すごくリアル感がありますね。地方企業向けのDXで必要になるのが、地方企業のお客様と対面で経営やDXに取り組む役割の人、経営分析のスキルを持つ人、デジタル関連のスキルを持つ人です。地方でエバンジェリストの役割を果たすのはエルダー人材が長けていますよね。経営分析は我々が支援できますし、デジタルのインフラが整備されている東京から、いろいろな形でDXのスキルをサポートし地方に届ける。そうした仕組みをぜひ実現させたいですね。

髙橋 今回のコロナ禍は大変でしたが、これほど短期間で多くの人がリモートの環境に慣れ親しむことは想像できませんでした。新しい取り組みでもリモートをうまく活用して、プラスに変えていくと面白いですね。 5Gの時代は、車に通信が入るなど、さまざまなものに通信が溶け込み、そこで新たな付加価値をつくる時代です。多くの産業で通信を掛け合わせて付加価値を生み出し、それをグローバルに展開できれば、日本の国益を高められます。KDDI DIGITAL GATEのような施設を使いながらアイデアを出し、IGPIさんなどパートナーと一緒に新しいものをつくっていければと思います。


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