IGPI’s Talk_02

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大田弘子×村岡隆史 対談

変革の実現に必要なことは?
~自分をとことん信じて、新たな環境に飛び込む~

IGPIのアドバイザリーボードメンバー*1である政策研究大学院大学特別教授の大田弘子さんは、内閣府高官や経済財政担当大臣として規制改革を推進したり、企業のガバナンス改革を支援してきました。
新しい環境に身を置き、様々な変革に臨む際の心構えやポイントについて、IGPI代表の村岡と対談しました。

*1 2020年12月取材時点。IGPI子会社である日本共創プラットフォームの社外取締役就任に伴い、現在はアドバイザリーボードオブザーバー。

大田弘子
政策研究大学院大学 特別教授

1976年一橋大学社会学部卒、(財)生命保険文化センター研究員、大阪大学経済学部客員助教授を経て、 96年埼玉大学大学院政策科学研究科助教授、97年政策研究大学院大学助教授、2001年同学教授。2002年~2005年内閣府に出向し、 参事官、大臣官房審議官、政策統括官(経済財政分析担当)を勤める。 2006年~2008年安倍・福田両内閣で内閣府特命担当大臣(経済財政政策担当)を勤める。2008年8月大学に復帰。2009年~2011年同学副学長。

好奇心に突き動かされて
新しい環境に飛び込む

村岡 大田先生は、経済分野の有識者として民間から官の世界へと足を踏み入れられましたが、非常に大きな意思決定だったはずです。何が後押しになったのでしょうか。

大田 竹中平蔵大臣(当時)から政府の中で改革を手伝ってほしいと言われたとき、最初はお断りしようと思いました。以前から自分は官僚に全然向いていないと思ってきたからです。私は職業として大学教員ですが、大学院も出ていないし、学者だと自称したこともありません。ずっと根無し草のようだと感じてきましたが、好奇心だけは非常に強かった。どんな世界か覗いてみたいという好奇心が勝って、依頼を受けることにしました。そして実際にやってみると、意外に官僚に向いていることがわかりました。

村岡 新しい世界でも力を発揮できるのは、環境変化にうまく適応できるからですね。

大田 適応性は高いほうだと思います。自分の中に特に捨てるほどのものはありませんし、郷に入れば郷に従い、まな板の上のコイにもなれます。もちろん、プライドの強い人たちの世界ですから、苦労はありました。最初は様子見で、会議に呼ばれないなど、外部から入った人が誰でも味わう体験をしました。

村岡 外部から新しい環境に入る点は、IGPIの仕事にも共通します。昨日までベンチャー支援をしていたのに、明日から超大企業の改革を手伝い、その3~6カ月後には地方のオーナー系企業、外資系企業、さらには海外で仕事をすることもありますから。新しい環境にすぐに対応し、短期間で相手と対等に話したりアドバイスができるようにキャッチアップしないといけません。そこは人によって向き不向きがあると感じます。

大田 政策を打ち出すときに重要なのがネゴシエーションですが、私には結構向いていました。まず関係省庁に折衝し、党の先生方に根回しをしていく過程は本当に大変ですけれども、川の流れのように、1つの言葉で方向性ががらりと変わったりする。ネゴシエーションにはいわく言い難い面白さがあります。

村岡 ご著書『経済財政諮問会議の戦い』の中でロジ(ロジスティクス、事務的な段取り)とサブ(サブスタンス、内容・中身)が重要だと指摘されています。ネゴシエーションはロジに当たると思うのですが、サブについては、どのような努力をされたのでしょうか。

 

大田 サブは地道に必要な情報を把握するしかありません。ただ、私はもともと要領だけはよくて、物事をぱっと把握するのは早いほうだと思います。
 サブももちろん大切ですが、小泉内閣のときに目から鱗だったのは、プロセスを変えることで政策を変えられることです。それまで政策づくりとは中身を考えることだと思っていました。ですが、中身を考えるだけでは物事は進みません。それよりも、経済財政諮問会議という場で、経済界、学界の人がしがらみのない立場で提言を出し、議事録を速やかにオープンにする。そうやって政策を議論し、スピーディーに総理のリーダーシップで決断するプロセスへと変えた結果、社会保障改革、郵政民営化も実現したのです。

村岡 私たちはコーポレート・トランスフォーメーション(CX)を支援していますが、過去の延長線上で物事を決める惰性がついていると、改革はうまくいきません。取締役会や経営会議で本質的な議論をして、CEOや社長が意思決定できる形に作り替えることが重要になってきます。

大田 官でも民でも共通するのは、変わることへの抵抗感が強いことですよね。戦後の日本型経営システムは、長期的取引慣行という言葉に集約されます。取引先との長い関係、系列、メインバンク制、株式持ち合い、終身雇用に見られるように、成長するには長期の視野をもてるように安定的関係をもつことが重要だという考え方で来たので、変わりたくない、変わらない理屈はいくらでも言えてしまうのです。

村岡 抵抗する人々には、どのように対応されるのでしょうか。

大田 大事なのはメッセージを重視して、変わった後にどうなるかを描けること。トップが明確に目指すものを持てば、社外取締役も、取締役会もそれを応援することはできます。
 IGPIでは若い方でも、変革を促す仕事をするときには、いろいろな人に根回ししなくてはなりませんよね。その時に、変革後の姿を見せないといけないので、それを示す資料がものすごく大事です。伝えたいこと、論点を明確にして、目に飛び込んでくる資料を準備するところは疎かにできません。

村岡 隆史
株式会社経営共創基盤 代表取締役CEO

三和銀行にて、プロジェクトファイナンス業務、M&A業務に従事。モルガンスタンレー証券を経て、産業再生機構に参画。三井鉱山、ミサワホーム、ミヤノ、ダイエー等の案件を統括。IGPI設立後は、数多くの企業の構造改革や事業再生に関わる他、中国・アジア諸国でのM&A・投資、成長戦略立案プロジェクトを多数統括。
金融庁参与、INCJ社外取締役、新日本工機社外取締役、池貝社外取締役
東京大学農学部卒、UCLA 経営学修士(MBA)

相手を動かすための起点は
共有部分をつくること

村岡 IGPIでは「情理と論理」という言葉をよく使います。物事を動かすうえで論理やファクトは大切ですが、人間は理屈だけでは動かない動物です。情理も含めて、うまくバランスをとる力を個々人で高められるよう意識しています。ただし、論理、ファクト、プレゼンテーションの手法は比較的学びやすいのですが、情理の部分や人間性は決まった学び方はありません。その部分で心がけてきたことはありますか。

大田 私は役人になるときに、元大蔵省事務次官の尾崎護さんから、とても良いアドバイスをもらいました。1つは、根回しは真剣勝負であること。根回しというと、舌先三寸で相手を丸め込むものと思われていますが、そうではありません。相手も譲れないものをもっていますから、相手を説得するには真剣勝負で臨まないといけない。もう1つは、決して腹を立てないこと。腹を立てたら、その時点で負けている、と。

村岡 なるほど。根回しには姑息なイメージがありますが、組織を変えていこうとするときには確かに必要ですね。

大田 物事を動かすときの議論は、勝ち負けではないし、論理的に正しいかどうかですらない。それよりも、まずは相手の土俵に乗って共有部分をつくることが大切です。IGPIの方が提案するときも、「絶対にこれが正しい」と言うだけでは、相手は絶対に乗ってきませんよね。相手の土俵に乗って、相手がどこでためらっているのか、どこが嫌なのかという理由を理解しないといけないのです。

村岡 我々がよく行うやり方は、まず相手のやりたいことを全面的に聞くこと。ロジックで説明しても納得してもらえない場合、相手のやりたいことを一緒にやってみます。本気でそれに取り組んで、うまくいかなければ、すぐに別の案を出せるように用意しておく。そこで初めて相手の心に響くことも多いですね。

大田 話を聞くことは大切ですね。相手に対してオープンになるのは、性格が明るい人でも、暗い人でもできます。これは向き不向きとは関係ありません。

村岡 改革は基本的につらいものですが、そういう場に長く身を置く中で、ご自身としてどんな変化や学びがありましたか。

大田 国会の場で袋叩きされて、立場上、反論も逆質問もできない。あの状況をもう一度やれと言われたときに、もう一度勇気を奮い立たせられるかどうかは正直なところわかりません。ただ当時は、それが自分の役割だという役割意識を持っていました。それから、周囲に支えてくれる仲間もいました。だから、これをやると決めたら、あまり考えすぎずに、1人でも味方を増やしていく。それでやっていけば、何とかなるものです。殺されることはありませんから。

村岡 基本的に何とかなる、殺されないというのは同感です。私も産業再生機構で初めて再生案件のプロジェクトマネジャーを務めたときに実感しました。
 企業再生では、ステークホルダー間で損を分け合うために調整するのですが、債権者の銀行からは「お前の責任だ」と詰め寄られます。一方、社内の人にはリストラを通告したり、取引先を切ったりしなくてはなりません。時には脅されることもあり、初めて飛び込んだときには精神的に参りました。それでも思ったのは、最後はなるようになる。命を取られるわけではないということ。そうした経験を2回、3回と重ねると、だいぶ怖さが減りました。
 とはいえ、それでも交渉がまとまらずに、結局、企業が倒産してしまったときには、へこみました。ですが、企業が法的手続きするのは、人間の死と違って、そこで終わりではない。そこに社会が求める価値が本当にあれば、誰かが承継し、社内の人々も別の場で活躍できます。企業再生とは、古くなって価値が落ちた事業は撤退し、価値ある事業だけをリサイクルする。それが自分の役割だという心の整理がつくと、厳しい現場に出ても何とかなるようになりました。

大田 そういう状況は本当につらいでしょうね。一番辛かったときに、私が決めていたのは2つだけ。笑顔でいることと、毅然としていること。この2つだけ守っていれば、あとは行きつくところまで行くだろうと思っていました。

イマジネーションを働かせて
粘り強く道を切り開く

村岡 大田先生にはここ数年、IGPIの経営諮問委員を務めていただきましたが、当社についてどんな印象をお持ちですか。

大田 大企業は内向きエネルギーがすごく強くて、会議が多かったり、仰々しかったりしますが、IGPIはそういう無駄が一切ない組織ですね。上下関係がなくて、経営諮問委員会の場で、誰かが冨山和彦さんに配慮して発言するようなことがないのも極めてすがすがしい。毎回の委員会で若い方にご説明いただきますが、非常に説明がうまくて、1人1人がプロフェッショナル集団という感じがします。

村岡 そういう評価いただけるのは嬉しいですね。パートナー全員が同じだけ議決権を持ち、あくまでも対等というのは、創業時から目指してきたことです。第1期のCEOは冨山で、第2期はたまたま私ですが、今後も年歴や社歴と関係なくバトンタッチしていきます。
 IGPIの若手や今後我々と一緒に仕事をする若い方々に、大田先生が期待することはありますか。

大田 IGPIのお仕事で重要だろうと思うのは、企業再生などにおいて、診断して処方箋を書くだけでなく、途中のプロセスも責任を持って一緒にやっていくところです。それは処方箋を書く能力だけでも、古いモデルのどこが悪いかと診断するだけでも務まりません。異なる業界で、意見や立場の違う人が、なぜそんなことを言うのか、相手に対するイマジネーションが必要です。イマジネーションはどのような仕事でも大事ですよね。

村岡 そうですね。我々が話を聞き、財務分析をして捉えた問題と、企業経営者が自覚している問題とはたいてい一致しません。そのまま提案しても普通は受け入れてもらえないので、相手の反応を予想しながら、次にどうするか、何手先まで読む。まさに大田先生の言うイマジネーションが大切です。また、実際には想像通りの展開にならないので、それに反応しないといけません。さらに、原因や今後の方針について合意ができた後で、必ずしも自分で抱え込んで主導するのではなく、時には最適な人や他社に託すことも求められます。それができるのがIGPIのプロフェッショナルであり、私たちの社会的役割だと思っています。

大田 いまおっしゃったことは、すごく難しくて自分には無理だと若い方は思ってしまうかもしれませんが、根無し草として職場を点々としてきた私自身の経験から言うと、その場に行くと、自分でも知らなかった自分が出てくるものです。たとえば、私は自分がネゴシエーションを面白がる人間だとは思っていませんでした。
 だから、あまり心配しないで、とことん自分を信じて、新しい世界に飛び込むといいと思います。それでうまくいかなければ、また出直せばいい。たとえダメでも、やる前とは全く違う自分になっているはずですから。

村岡 最初は誰でも素人です。私も最初の企業再生を担当したときは、全くの素人なのに、債権者会議で何百人もの人を相手に1人で説明しなくてはなりませんでした。多対1だと思った瞬間に、気持ちで負けてしまいますが、実際に質問してくるのは常に1人です。1対1なら、自分のほうが相手よりもよく考えて準備してあるから、負けるはずがない。これは、そういう場を経験したからこその発見でした。

大田 粘っていれば、そのうち道が開けてきますよね。IGPIでは若い時から思い切って任せておられるので、これはとても良いことだと思います。

村岡 修羅場経験を若い人に積んでもらい、人間的に成長し、グローバルで戦えるようになってもらう。それがIGPIの強みになり、ひいてはこの国の発展に貢献できると思っています。今後10年で、世界でもIGPIが認知され、海外企業から相談される存在になることを目指しています。大田先生には引き続き、叱咤激励と温かいアドバイスをお願いいたします。